本と戯れる日々


レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

国家の「罪と罰」

国家の「罪と罰」

元外交官であり、現在は作家・ジャーナリストとして活躍している佐藤優氏が雑誌「SAPIO」に連載していた記事を1冊の本にまとめたものです。

過去に紹介した著者の本は、いずれも過去の出来事を回想録、もしくはドキュメンタリー風にしたものですが、本書は時事的な外交の話題が中心のため、著者の得意な情報分析の視点を楽しみにしながら読み始めました。

そして以前に著者の本を読んで、「一流の外交官は一流のジャーナリストの素質がある」という感想を持ちましたが、本書を読み終えてもその思いに変化はありませんでした。

佐藤氏は将来の世界情勢を予測するにあたり、大胆な仮説や突飛は発想を用いず、公に発信されている情報を中心に整理、構築し、地に足の付いた理論を展開します。

ほとんどの社会人にとって経済ニュースには敏感であっても、馴染みの薄い外交や国際問題へは感心が低い人が多いのではないでしょうか?

私自身も普段は外交問題を深く考える機会がありませんが、本書は「本当の外交・国際ニュースの読み方」を実践的に教えてくれます。

著者の一貫している主張は、日本の官僚、政治家の外交能力が低下しているため、例えばロシアがマスコミなどを通じて報道する情報の裏に込められたシグナルやメッセージを適切に読み取ることが出来ない、言い換えれば国家間のコミュニケーションが取れないという状況に強い危機感を持っていることです。

その裏側には、外務省という組織が長い間に様々な利権を生み出し、それに固執することで形骸化してゆき、さらには新しい人材を育成する土壌が失われつつあるといった背景が存在します。

日本は経済は一流で、外交は三流化以下と揶揄されますが、国益という視点からはお互いに密接な関係にあり、本来は一方のみを切り離して考えることは出来ないはずです。

外交についても経済、財政、社会保障問題と同じように有権者が関心を持つべき重大なことだと痛感させられました。

ちなみに本書で何度か触れられているロシアの国営ニュースサイトロシアの声(旧:モスクワ放送)は、記事の質・数共に優れているサイトです。興味のある方は是非覗いてみては如何でしょうか?

イギリス観察学入門

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今年はロンドンでオリンピックが開催されることもあり、注目を集めつつあるイギリス。

そんなイギリスの風習や伝統をエッセー風に紹介してくれる1冊です。

本書のいたるところに写真が掲載されており、例えば文字だけでは伝わりにくいイギリスの墓の形状やバラエティに富んだ数々の窓などを読者へ分り易く伝えてくれます。

その他にも乳母車や散歩道(遊歩道)、そして標識やトイレなど身近な日常のものを取り上げており、ありきたりの観光地ガイドや宗教や政治といった重々しい話題はまったく登場しません。

こうした何気ない日常の風景の中にイギリス人が歴史や伝統を大切にし、几帳面に規律を定めて重んじるといった側面が垣間見れます。

新書ということもあり短い時間で読めてしまいますが、その読了感を例えるなら、どの町にもありそうな小さな民俗資料館から出てきた時の満足感に似たものがあります。

一方でイギリスは民族紛争やテロの脅威、移民や格差問題など多くの深刻な問題を抱えていますが、こうした問題を取り上げるのは本書の役割ではなく、ニュースや専門書を併せ読むことでより深い理解に繋がるのは言うまでもありません。