本と戯れる日々


今まで紹介してきた本は900冊以上。
ジャンル問わず気の向くまま読書しています。

トラックドライバーにも言わせて



本書を執筆したフリーライターの橋本愛喜氏は、元工場経営者にしてトラックドライバーという変わった経歴を持っている女性です。

そしてタイトルから分かる通り、本書は彼女がトラックドライバーとして活躍していたときの経験と取材を踏まえて執筆したエッセイ&ルポタージュです。

場所と時間帯によっては乗用車よりもトラックの方が多いくらいに身近な存在ですが、それもそのはずで、物流においてトラックが担っている役割は大きく、衣食住のほぼすべてが依存しているといってもよいでしょう。

一方で、日本経済を支えるトラックドライバーの実態は知っているようで知らないことばかりということが本書を読んでいくと分かってきます。
例えば次のようなことです。

  • トラックドライバー同士の暗黙のマナー
  • トラックがノロノロ運転する理由
  • トラックが左車線を走りたがらない理由
  • 路駐で休憩せざるを得ない理由
  • なぜハンドルに足を上げて休憩するのか
  • トラックドライバーの眠気対策


    • 中には事情を知らないと運転マナーが悪いと誤解してしまうものまであり、それだけでも本書を手に取った価値があります。

      ところで私がトラックドライバーに抱くイメージは、ずばり運転のプロです。

      普段乗用車しか運転しない私にとって、4tトラックですら手に余るのは容易に想像がつきますが、それがトレーラーや大型トラックであったらまったく運転できないに違いありません。

      そして彼らの仕事はただ運転しているだけではないことも理解できます。
      家族サービスでたまにドライブで遠出することがありますが、やはり乗用車であってもかなり疲労することを考えると、日常的にトラックを運転することの大変さは想像がつきます。

      著者は自らの経験からトラック業界の抱える問題点についても分かりやすく解説してくれています。

      例えば手荷役(通称:バラ積み、バラ降ろし)といった契約外の重労働、 延着早着を避けるための長時間拘束、未払い残業代、さらに荷主第一主義がもたらす法令違反(例えば過積載)などの業界の闇も解説しています。

      私の働く業界も当然のように闇が存在しますが、トラックの場合はときに他人の命を奪う危険性を持っています。

      そしてこれは業界内だけの問題ではなく、日常的に時間指定配達再配送送料無料といったサービスの恩恵に預かっている私を含めた業界外の人にも無縁ではいられないことなのです。

      よく日本は暮らしやすい国と言われますが、果たしてそれは本当なのかと疑問に思う時があります。 それは、日本人は安くて品質の良いサービスが当たり前になり過ぎている側面があると感じるからです。

      本書の最後に書かれている言葉が印象的です。
      誰かの「犠牲」が伴うサービスは、もはや「サービス」ではないと筆者は思うのだ。

琉球王国



2019年10月31日に首里城の正殿、北殿と南殿が全焼するという残念な事故が発生しました。

著者の高良倉吉氏は琉球王国史を専門としている学者であり、1989年に戦争で消失した首里城を再建する計画にも参加した経験を持っています。

私自身かなり前に首里城を訪れた時に、かつて存在した琉球王国というものを意識したことがあるものの、その歴史や制度を詳しく知るには至りませんでした。

その頃は沖縄史を漠然としか把握しておらず、その後何冊かの沖縄史関連の本を読むことによって概略くらいは理解することができました。

今回本書を手にとって理由は、沖縄史の中でも対象を"琉球王国"に絞っているからです。

全盛期の琉球王国は、国土こそ狭かったものの日本、中国、朝鮮半島、東南アジアといった東アジア全体を我が庭のように行き来する海洋国家として名を馳せていました。

とくに15世紀~16世紀にかけて当時最先端だった中国の造船技術を取り入れた琉球王国は、同時期の鎌倉や室町幕府の航海技術を完全に上回っていたといえます。

本州で武士たちが権力闘争を繰り広げている頃、沖縄には中継貿易によって平和と繁栄を享受していた王国が存在していたと考えると、日本史に多様性と奥行きが出てくるはずです。

本書では尚巴志尚真王をはじめとした琉球王国史における有名な国王に触れいているのはもちろんですが、行政や貿易を支えた琉球王国の制度について学者らしく古文書を用いて紐解いてゆきます。

それでも本州の史料と比べると、明治政府による沖縄処分、そして太平洋戦争における国内唯一の地上戦によって多くの貴重な史料が失われました。
よってその全体像を明らかにすることは難しい作業ではあるものの、わずかな一級資料などを手がかりに地道な研究を続ける著者の姿勢には頭が下がる思いです。

専門的な内容に踏み込んでいる章もあるため退屈に感じる読者がいるかも知れませんが、私にとっては思った通りの内容であり、かつてアジア中の海を船で駆け巡った琉球王国のイメージが頭に浮かんでくるような1冊です。