琉球王国
2019年10月31日に首里城の正殿、北殿と南殿が全焼するという残念な事故が発生しました。
著者の高良倉吉氏は琉球王国史を専門としている学者であり、1989年に戦争で消失した首里城を再建する計画にも参加した経験を持っています。
私自身かなり前に首里城を訪れた時に、かつて存在した琉球王国というものを意識したことがあるものの、その歴史や制度を詳しく知るには至りませんでした。
その頃は沖縄史を漠然としか把握しておらず、その後何冊かの沖縄史関連の本を読むことによって概略くらいは理解することができました。
今回本書を手にとって理由は、沖縄史の中でも対象を"琉球王国"に絞っているからです。
全盛期の琉球王国は、国土こそ狭かったものの日本、中国、朝鮮半島、東南アジアといった東アジア全体を我が庭のように行き来する海洋国家として名を馳せていました。
とくに15世紀~16世紀にかけて当時最先端だった中国の造船技術を取り入れた琉球王国は、同時期の鎌倉や室町幕府の航海技術を完全に上回っていたといえます。
本州で武士たちが権力闘争を繰り広げている頃、沖縄には中継貿易によって平和と繁栄を享受していた王国が存在していたと考えると、日本史に多様性と奥行きが出てくるはずです。
本書では尚巴志、尚真王をはじめとした琉球王国史における有名な国王に触れいているのはもちろんですが、行政や貿易を支えた琉球王国の制度について学者らしく古文書を用いて紐解いてゆきます。
それでも本州の史料と比べると、明治政府による沖縄処分、そして太平洋戦争における国内唯一の地上戦によって多くの貴重な史料が失われました。
よってその全体像を明らかにすることは難しい作業ではあるものの、わずかな一級資料などを手がかりに地道な研究を続ける著者の姿勢には頭が下がる思いです。
専門的な内容に踏み込んでいる章もあるため退屈に感じる読者がいるかも知れませんが、私にとっては思った通りの内容であり、かつてアジア中の海を船で駆け巡った琉球王国のイメージが頭に浮かんでくるような1冊です。