トラックドライバーにも言わせて
本書を執筆したフリーライターの橋本愛喜氏は、元工場経営者にしてトラックドライバーという変わった経歴を持っている女性です。
そしてタイトルから分かる通り、本書は彼女がトラックドライバーとして活躍していたときの経験と取材を踏まえて執筆したエッセイ&ルポタージュです。
場所と時間帯によっては乗用車よりもトラックの方が多いくらいに身近な存在ですが、それもそのはずで、物流においてトラックが担っている役割は大きく、衣食住のほぼすべてが依存しているといってもよいでしょう。
一方で、日本経済を支えるトラックドライバーの実態は知っているようで知らないことばかりということが本書を読んでいくと分かってきます。
例えば次のようなことです。
- トラックドライバー同士の暗黙のマナー
- トラックがノロノロ運転する理由
- トラックが左車線を走りたがらない理由
- 路駐で休憩せざるを得ない理由
- なぜハンドルに足を上げて休憩するのか
- トラックドライバーの眠気対策
中には事情を知らないと運転マナーが悪いと誤解してしまうものまであり、それだけでも本書を手に取った価値があります。
ところで私がトラックドライバーに抱くイメージは、ずばり運転のプロです。
普段乗用車しか運転しない私にとって、4tトラックですら手に余るのは容易に想像がつきますが、それがトレーラーや大型トラックであったらまったく運転できないに違いありません。
そして彼らの仕事はただ運転しているだけではないことも理解できます。
家族サービスでたまにドライブで遠出することがありますが、やはり乗用車であってもかなり疲労することを考えると、日常的にトラックを運転することの大変さは想像がつきます。
著者は自らの経験からトラック業界の抱える問題点についても分かりやすく解説してくれています。
例えば手荷役(通称:バラ積み、バラ降ろし)といった契約外の重労働、 延着や早着を避けるための長時間拘束、未払い残業代、さらに荷主第一主義がもたらす法令違反(例えば過積載)などの業界の闇も解説しています。
私の働く業界も当然のように闇が存在しますが、トラックの場合はときに他人の命を奪う危険性を持っています。
そしてこれは業界内だけの問題ではなく、日常的に時間指定配達や再配送、送料無料といったサービスの恩恵に預かっている私を含めた業界外の人にも無縁ではいられないことなのです。
よく日本は暮らしやすい国と言われますが、果たしてそれは本当なのかと疑問に思う時があります。 それは、日本人は安くて品質の良いサービスが当たり前になり過ぎている側面があると感じるからです。
本書の最後に書かれている言葉が印象的です。
誰かの「犠牲」が伴うサービスは、もはや「サービス」ではないと筆者は思うのだ。