イギリスの不思議と謎
外国を理解するためには、色々な側面からその国を知る必要があります。
かなり前に「イギリス観察学入門」という本を紹介しましたが、そこではイギリスの日常的な風景、食生活やライフスタイルなどが解説されており、例えば観光でイギリスを訪れる際に役に立ちそう1冊でした。
もちろんイギリスといっても多様な人種や文化が存在する国であり、それをひと括りにすることは不可能ですが、本書ではイギリスに住む人々の根底にある概念、認識、あるいは思考といったものを解説しています。
それを日本人に置き換えてみると、かつて存在した"武士"へ対して抱く概念、神社仏閣への信仰心、伝統文化への理解、隣国へのイメージなど、それは形として目には見えにくいものです。
本書で解説されているのはイギリス人にとってのそのような内容であり、当たり前ですがそれは歴史上の中で少しずつ培われてきたものです。
日本ではようやく最近見なくなった風景ですが、イギリスのパブリックスクールでは、19世紀はじめ(約200年前)に先生の生徒へ対する暴力、それに反抗する生徒といった構図で学校の秩序が崩壊した時期がありました。
そうした子どもたちのエネルギーを違う方向に導き、利己的な行動を抑制して団体行動の重要さを教育するためにスポーツという教育手段が取り入れられました。
イギリスはサッカーやラグビー、クリケットなど多くのスポーツの発祥の地と言われますが、その背景には歴史的な学校の制度改革があったからです。
ほかにもなぜイギリスは茶木が自生しない国にも関わらず、紅茶の国、つまりアフタヌーンティー文化発症の地となったのかについても、本書で解説されている歴史的背景は興味深いものでした。
本書のはじめにイギリスは一般的に礼儀としきたりを重んじる保守的な国というイメージがある一方、新しいものを積極的に受け入れる国であると書かれていますが、イギリスという国の成立過程からして多様で複雑な文化を内包していることを考えると当然であるという見方もできます。
それは良い面もあり、一方で未だに続く地域感の不協和音や対立といった負の側面も持っているいるのです。
つまり一筋縄には行かないイギリスの懐の深さは、タイトルにある通り「不思議と謎」でもあるのです。