本と戯れる日々


今まで紹介してきた本は900冊以上。
ジャンル問わず気の向くまま読書しています。

イノベーションの作法

イノベーションの作法(日経ビジネス人文庫) (日経ビジネス人文庫 ブルー の 1-3)

世の中に新しい価値を生み出した"イノベーション"誕生の背景を取材し、その分析を行った本1冊です。

本書では以下の13の事例に迫っていますが、見て分かるように様々な分野を網羅しており、職種を問わず、また経営者・会社員と幅広い人たちが興味を持って読めるような配慮が感じられます。

  • マツダ(ロードスター)
  • サントリー(伊右衛門)
  • 北の起業広場協同組合(北の屋台)
  • 近畿大学水産研究所(クロマグロの完全養殖)
  • 新横浜ラーメン博物館
  • KDDI(auデザインプロジェクト)
  • シャープ(ヘルシオ - ウォーターオーブン)
  • ソニー(フェリカ - 非接触ICカード技術)
  • ナチュラシステム(ナレッジサーバー)
  • サッポロビール(第三のビール「ドラフトワン」)
  • トヨタ自動車(ハイブリッド車「二代目プリウス」)
  • はてな(インターネットサービス)
  • サッカーJリーグ(アルビレックス新潟)

本書で度々触れられますが、MBAをはじめとしたアメリカ型の経営マネジメントが日本に蔓延し、分析至上主義分析マヒに陥っていると警告を発しています。

そしてイノベーションに大切なのは、情熱と信念をバックボーンとした主観であり、イノベーションの主人公は理論やITから生まれる情報ではなく、あくまで"人間自身"であることを再確認しています。

イノベーションはその性質上、マニュアル化(ハウツー化)できるものではありません。
にも関わらず殆どの会社では、客観的な分析結果や、特定のマネジメント手法が最も説得力のある材料として用いられがちです。

分析から得られるものは過去の情報(バックミラーの景色)であり、そこからは平面的な戦略しか見えてこないと痛烈な批判を行っています。

イノベーションを目指す企業は数多ありますが、本来、手段(ツール)に過ぎない経営戦略やマーケティングといった言葉が一人歩をして、本質的なもの見失いがちになる企業は少なくないと思いますし、巷に溢れる企業向けのセミナーも然りです。

そんな中で、一番大切な自分自身が仕事を通じて成し遂げたい信念や情熱を見つめ直すきっかけを与えてくれる1冊です。

岩崎弥太郎と三菱四代

岩崎弥太郎と三菱四代 (幻冬舎新書)

歴史研究家という肩書きを持つ著者が、岩崎弥太郎の興した三菱の遍歴を綴った1冊。

タイトルにある通り、ひたすら岩崎四代の社長の事業展開をなぞってゆきます。

史伝にありがちな脇道にそれる展開が微塵もありません。

新書の紙面分量を考えると、ジャンルは何であれ題材を絞って深く掘り下げる本書のようなスタイルには交換が持てます。

幕末から活動し、坂本竜馬後藤象二郎らと親交があったという要素を考えると、どうしても初代・岩崎弥太郎に注目が行きがちですが、著者は弥太郎の弟で二代目社長の弥之助をそれ以上に評価しています。

たしかに明治政府との対立によって主力の海運事業から撤退せざるを得ない事態に陥り、一旦は大きく後退したにも関わらず、三菱財閥の基礎となった思い切った多角経営への方向転換という大決断を下したのは二代目の弥之助であり、最後は鮮やかな勇退(禅譲)を行ったという逸話は本書を読んで初めて知りました。

三菱グループという巨大な組織といえども、その礎を築く過程においては何度もの危機を乗り越え、時には能力を超えた運命ともいうべき力にも助けられて現在の姿があります。


栄光に彩られた三菱だけに、それだけ闇の部分も濃いということを念頭に入れつつ読むのがよいでしょう。

「即戦力」に頼る会社は必ずダメになる

「即戦力」に頼る会社は必ずダメになる (幻冬舎新書)

人事コンサルタントをされている方が執筆している本です。

タイトルと内容には微妙なズレがあり、実際には本書の大部分を使って"成果主義"を批判しています。

露骨に言えばキャッチーなタイトルを付けて多くの人に本書を手にとってもらいたいという意図が透けて見えてしまいます。


成果主義は概念的なものであり、会社へより多くの直接的な利益をもたらしているように見える社員のみを評価する会社は存続出来ないというのが本書の要点です。

サラリーマン、そしてこれから社会人を目指す人への啓蒙書として書かれています。

安易に目の前の給料の額面や、職場の雰囲気に流されて転職をするのではなく、「自己育成の場」として捉えることの重要性を説いています。

確かに書かれていることに納得はできるのですが、本書に書かれている悪い会社(制度)の例が露骨過ぎるため、個人的には浅いレベルでの同感に留まってしまいます。

とは言え、著者なりの人事評価の原則・原理についてはしっかりと書かれており、手軽に読める新書としては手堅くまとまっている1冊です。

中原の虹 (4)

中原の虹 (4) (講談社文庫)

いよいよ「中原の虹」の最終巻です。


""や"国民党"の勢力を排除し、ついに張作霖は満州において覇権を確立します。

しかし中国全体で軍閥が割拠する状況は変わらず、小説のタイトルにある通り、誰が中原(中国の中心)の覇権を握るのか全く予想も付かない状況です。

"中原"という言葉は中国の歴史に度々登場する言葉ですが、地理上では黄河中・下流周辺の漢民族の文化(黄河文明)発祥の地域を指しますが、それ以上に「中原を制すものは天下を制す」という歴史的な概念が中国に存在します。

これは他民族間で国家の興亡を繰り広げた中国ならではの概念であり、日本の上京(上洛)といった言葉ともニュアンスやスケールが異なるものです。

元々"清"という国自体が満州民族(女真族)の建国した国家であり、約250年にわたって中国を支配し続けました。

作品の各所に建国の父である太祖ヌルハチ、そして長城を越えて明を滅ぼした3代目の順治帝の時代へと時代を遡って描写されていますが、彼らにとっての"中原"は単なる憧れを超越した、家族や自らの命を引き換えにしても目指すべき"究極の夢"として位置付けられているのが印象的でした。


本作品は張作霖の生涯を描き切ること無く、袁世凱が亡くなる場面で物語を終えています。


個人的には中盤以降、北京を中心にした舞台が続き、満州を舞台としたストーリーの頻度が少なくなってしまったのが残念であり、露骨に言えば、満州を中心にした日本(関東軍)やロシアの暗躍をもっと描いて欲しかったのが本音です。

ただ終わり方を見る限り、未解決の伏線が無数にあり、近い将来、本作品の続編を読むことが出来ると納得することにしました。


本作品で張作霖の役割は終わりつつありので、続編では息子の張学良が活躍することになりそうです。

中原の虹 (3)

中原の虹 (3) (講談社文庫)

3巻に入り、250年以上にわたって中国を支配し続けた""にもいよいよ最期の時が迫ってきます。

すなわち光緒帝が崩御し、ほぼ時を同じくして(翌日に)西太后が亡くなります。

西太后による光緒帝の毒殺説が根強くあるほどの歴史の謎とされている出来事ですが、過去に2人は政策面で対立しており、最終的に武力で西太后が勝利して光緒帝を幽閉するまでに至る経緯を考えると説得力があります。

著者の浅田氏は、この一連の出来事の舞台裏を小説ならではの大胆なストーリーで展開してゆきます。
すこし美化し過ぎの印象もありますが、小説の本質である娯楽としての観点から見れば、充分なレベルに仕上がっていると思います。

2人の死後、清の最後の皇帝としてわずか2歳の溥儀(宣統帝)が即位することになりますが、張作霖孫文をはじめとした新しい時代の到来を告げる勢力の前には、余りにも無力な存在です。

更に古い時代と新しい時代の空白の時間を突くかのように、近代兵器を備えた"清最強"の北洋軍を率いる袁世凱が政権を奪い、台頭することになります。


武力を背景にした強引さと、目的のためには(裏切りや恫喝などの)手段を選ばないやり方が災いして、歴史的には低い評価をされる傾向がある袁世凱ですが、叩き上げとして軍で出世した彼に優れた統率力と戦略眼があったのは間違いありません。


一見すると大胆不敵な袁世凱ですが、彼の古くからの同僚である徐世昌の視点を通じて、過去に科挙試験に落第した経験を未だに引きずり続けている繊細な心の持ち主というのが本当の彼の姿であるという、ここでも小説ならではの描写がされています。

何のバックボーンも持たない袁世凱が頂点まで登りつめることが出来た背景には、大胆な言動に隠された臆病さと用心深さがあった。

確かにこの仮説は、案外を射ているかも知れないと思います。