岩崎弥太郎と三菱四代
歴史研究家という肩書きを持つ著者が、岩崎弥太郎の興した三菱の遍歴を綴った1冊。
タイトルにある通り、ひたすら岩崎四代の社長の事業展開をなぞってゆきます。
史伝にありがちな脇道にそれる展開が微塵もありません。
新書の紙面分量を考えると、ジャンルは何であれ題材を絞って深く掘り下げる本書のようなスタイルには交換が持てます。
幕末から活動し、坂本竜馬や後藤象二郎らと親交があったという要素を考えると、どうしても初代・岩崎弥太郎に注目が行きがちですが、著者は弥太郎の弟で二代目社長の弥之助をそれ以上に評価しています。
たしかに明治政府との対立によって主力の海運事業から撤退せざるを得ない事態に陥り、一旦は大きく後退したにも関わらず、三菱財閥の基礎となった思い切った多角経営への方向転換という大決断を下したのは二代目の弥之助であり、最後は鮮やかな勇退(禅譲)を行ったという逸話は本書を読んで初めて知りました。
三菱グループという巨大な組織といえども、その礎を築く過程においては何度もの危機を乗り越え、時には能力を超えた運命ともいうべき力にも助けられて現在の姿があります。
栄光に彩られた三菱だけに、それだけ闇の部分も濃いということを念頭に入れつつ読むのがよいでしょう。