本と戯れる日々


今まで紹介してきた本は900冊以上。
ジャンル問わず気の向くまま読書しています。

自分のことは話すな


 


著者の吉原珠央氏は、イメージコンサルタントというプレゼンテーションやコミュニケーションを対象としたコンサルティング活動をされています。

タイトルにある「自分のこと」とは、例えば今日の天気に代表される雑談、オチのない会話全般を指しています。

私自身、営業職の方が初対面の人との距離を縮めるために次のような発言をしているのを聞いたことがあります。

  • 軽い雑談から入って緊張を解きほぐす
  • なるべく沈黙の時間を作らないように会話を続ける
  • 自分のことを相手に覚えてもらうために自己紹介を行う
  • 政治や宗教の話題は避ける

    • しかし著者によればこれらの行為はすべてNGであり、次のように厳しく指摘されています。

      • 「自分を分かってほしい」と思うほど傲慢なことはない
      • 雑談が多い人ほど自分に甘い
      • 雑談好きの人は大事な場面で選ばれない
      • 「信仰・政治・病気の話題」を避けるな

        • まず本書の前提として、家族や気の合う友人との会話ではなく、具体的に達成したい目的があり相手と会話する場面を想定しています。

          こうした前提の場合、すぐに本題を切り出すのが望ましいと書かれています。

          たしかに私自身の経験からも、仕事中はタスクに追われていることも多く、よって時間に余裕がないという状況は日常茶飯事です。

          こういうタイミングで開催された打ち合わせにおいて雑談が長いとうんざりしますし、仮に時間的に余裕があったとしても雑談は最小限にしてくれた方が有り難いと感じてしまいます。

          また本書の後半では具体的な会話内容を引用しつつ、効果的なフレーズ、ポイントなどが実践的な内容で紹介されています。

          ただし中には男性でこのフレーズは使いづらいという内容も含まれているため、自分なりにすこし工夫する必要がありそうです。

          全体的には随所に新しい発見やなるほどと思わせる内容があり、どれも意識を変えるだけですぐに実践できるという点もポイントです。

          プレゼンやコミュニケーション能力、もっと言えば営業力を高めたいと思っている人であれば是非一読してみることをおすすめできる1冊です。

三千円の使いかた



今まで原田ひ香氏の作品は読んだことがありませんが、何年か前にベストセラー作品として本屋の目立つ場所に陳列されていた記憶がありタイトルは覚えていました。

作品の内容はずばり"お金をテーマにした小説"です。

お金といっても大企業や投資家たちのマネーゲームではなく、どこにもありそうな普通の家庭にとっての"お金"を扱っています。

本書には年代別、ファイナンシャルプランナー(通称:FP)風に言えば人生のステージ別に4人の主人公が登場します。

1人目は大学を卒業して一人暮らしを始めて数年がたつ26歳の美帆です。

彼女は適度に一人暮らしを楽しみつつ漠然と結婚を考え始めている一方で、贅沢をしているつもりはないものの貯蓄には無頓着で貯金は30万円ほどです。

2人目は美帆の祖母にあたる73歳の琴子です。

彼女には貯金が一千万円あるものの、夫との死別で年金の支給額が減っています。
今すぐに生活資金に困る心配はないものの、将来の介護などを考えると漠然とした不安を抱いています。

3人目は美帆の姉で、消防士の夫、娘と3人で都内の賃貸物件に住んでいる真帆です。

子育てのため夫の給料だけで家計をやりくりしつつ、将来的にマイホームや娘の教育資金を貯めるため計画的に節約や貯蓄に取り組み、600万円の貯金があります。

そして4人目は美帆と真帆の母であり、琴子から見ると義理の娘にあたる智子です。

子育てに一段落着いた50代の夫婦ですが、娘2人分の大学での授業料、そして結婚式費用の援助やらで気づけば貯金が100万円でしかないことに気付き愕然としています。

見て分ける通り、4人とも特別に裕福でも貧乏なわけでもなく、どこにでもいそうな人たちです。

作品中には30代のフリーターや学生時代の友人などさまざまな人物が登場しますが、経済事情も人それぞれです。

多くの読者は作品中の中に今の自分と近い立場の登場人物を見つけることができるのではないでしょうか。

ストーリーが大きく飛躍したり、大どんでん返しがあるタイプの作品ではありませんが、お金という現実的な課題に正面から向き合いつつ、地に足の着いた自分なりの幸せを実現するための日常を丁寧に描いている点には好感を持てます。

自分よりよい給料をもらっている、大きい家に住んでいる、高い車に乗っているなど、他人と自分を比べればキリがありません。

もし無意識にお金の面で他人と自分を比べてしまい、悶々としているようであれば是非本作品を読んでみることをおすすめします。

本作品は小説であると同時に、具体的かつ優しくマネープランを教えてくれる本でもあり、本書がベストセラーとなった要因になっているのかもしれません。

ガリバルディ - イタリア建国の英雄



イタリアと言えば誰もがヨーロッパにある長靴形の半島にある国を思い浮かべると思います。

一方でローマ帝国が滅んだ中世以降、長い期間にわたって現代の私たちが思い浮かべるイタリアが1つの国家としてまとまることはありませんでした。

つまり中世の人びとにとって"イタリア"とは、イタリア半島の地理的な名称に過ぎず、幾つもの国が群雄割拠のように存在し続ける地域だったのです。

このイタリアの独立と統一を果たした英雄が本書で紹介されている"ガリバルディ"です。

最終的なイタリア統一が完成するのは1871年であり、これは日本での明治維新とほぼ時期が一致します。

こうした要因から当時の日本においてガリバルディは、同じく維新の元勲として人気のあった西郷隆盛と比較して紹介されることが多かったようです。

またガリバルディの経歴には信ぴょう性の低い神話のようなエピソードも付け加えられており、これはイタリアの英雄としての人気が高かった故に当然のことなのかもしれません。

本書ではイタリア近代史の専門家である藤澤房俊氏が、神話と実像を腑分けして等身大のガリバルディの生涯を描いています。

ここでは詳しくは触れませんが、実際に本書を読み進めてゆくとガリバルディの生涯は英雄にふさわしい起伏に富んだものであることが分かります。

現代のフランスの南東部にあるニースにおいてごく普通の家庭に生まれ、船乗りとしてキャリアをスタートしたガリバルディは南米に渡り、再びイタリアに戻り戦いに明け暮れた人生を送ることになります。

成功と挫折を繰り返しながらも頭角を表してゆくガリバルディは、やがてイタリア統一の英雄となりますが、その後は政治の舞台から離れカプレーラ島で隠遁生活を送ったという点も西郷隆盛との共通点を感じさせます。

もちろんイタリア統一を果たしたのは彼1人の力ではなく、思想面でイタリア統一の気運を作り出したマッツィーニ、政治や外交面で卓越した能力を発揮してのちに初代イタリア王国首相となったカヴールらの活躍も大きな要因です。

見方を変えれば、理想を追い求め妥協を許さなかったマッツィーニ、現実主義者でときには名を捨て実を取ることも辞さなかったカヴール、理想や現実を難しく語るよりも、とにかく勇気を持って実行あるのみというガリバルディたち3人が奇跡的な相乗効果を発揮した結果がイタリア統一へつながったのです。

イタリアの歴史家・哲学者であるベネデット・クローチェはイタリアの誕生を次のように評しています。
「もし芸術作品につかう傑作という言葉を、政治的事象にも使うとすれば、イタリアの独立と統一はまさに傑作と言うに値する」

ガリバルディはカエサルのようにすべてを兼ね備えた天才ではなく、おもに""の面でイタリア統一に功績のあった人物というこになります。

あとがきで著者がガリバルディの特質を上げているので紹介してみたいと思います。
心が熱く、邪気がない、単純で一面的な考え方しかできない、直感が熟慮をはるかに上回り、直情径行で、熱情にかられて行動に走る、向こう見ずで、意味もなく勇敢で、無謀な行動主義者で、非常時型の人間であった。
また、私利私欲や地位声望を求めず、清廉潔白で、天真爛漫な、大きな駄々っ子的特質は、民衆を惹きつけてやまない魅力となった。

長所、そして短所も持っているがゆえに人びとにとって身近に感じられる愛すべき人物であったことがよく分かります。

思考の整理学


  • 刊行から37年読み続けられる「知のバイブル」
  • 時代を超えたベスト&ロングセラー 270万部
  • 全国の大学生協 文庫ランキング1位獲得
  • 歴代の東大生・京大生も根強く支持

読みたい本や興味のある本を手にとることが多いですが、文庫分の帯にあるこうした宣伝文句に目が止まって購入した1冊です。

本書のテーマはずばり「考えることの本質」です。

人生において大きな目標、または課題をクリアするためには自分の力(考え)で乗り越える必要があります。

こうした問題を解決するためのヒントは本やネットに転がっていても、答えそのものがそこにあることはありません。

なぜなら状況は個人の環境や立場によって違うものであり、解決のためには考える力を持つ必要があり、また創造的な仕事を成し遂げるためにも自ら考え出す力が求められます。

著者の外山滋比古氏は英文学者、文学博士であり、まさに"考える"ことを生業にしている自身の経験や試行錯誤からそのヒントを読書へ与えてくれるのです。

著者はまず学校教育の弊害を指摘しています。

それは学校学習が教師にひっぱられ勉強する仕組みであり、いわば受動的に知識を詰め込むだけの教育では考える力が育たないということです。

こうした問題は昔から言われ続けてきましたが、さらに本書は1983年というインターネットが登場するかなり前に発表された本でありながら、将来的に高度な情報化社会が訪れ、AIという言葉自体が使われていない時代からコンピュータによって(考えることをしない)人間が負かされる時代が到来することをはっきりと見通しています。

昔は「知恵袋」という言葉があったように、頭の中に多くの知識を蓄えた人間が優秀とされてきましたが、今や情報の記憶量と再生の早さ、正確性という面においてはコンピュータの方がはるかに優れており、もはや知識を蓄えているだけでは優秀な人間とは言えない時代が訪れて久しい状況です。

最後に本書で紹介されている考え方のヒントを紹介しておきます。

  • 知的活動に適した時間帯
  • 考えそのものをいったん寝かせて時間をかける
  • 異質なものを結合させて考えることの重要性
  • 考えを整理するための手帳とノートの使い方と整理方法
  • ときには知識を捨てるための重要性
  • 垣根を超えての交流の重要性(同じ専門家同士のインブリーディングは避ける)
  • 良い考えが生まれやすいシチュエーション

実際に本書を読めば納得のできる理由も書かれており、考えがまとまりにくい、途中で思考を投げ出すことが多いと感じている人は是非手にとってみてはいかがでしょうか。