ガリバルディ - イタリア建国の英雄
イタリアと言えば誰もがヨーロッパにある長靴形の半島にある国を思い浮かべると思います。
一方でローマ帝国が滅んだ中世以降、長い期間にわたって現代の私たちが思い浮かべるイタリアが1つの国家としてまとまることはありませんでした。
つまり中世の人びとにとって"イタリア"とは、イタリア半島の地理的な名称に過ぎず、幾つもの国が群雄割拠のように存在し続ける地域だったのです。
このイタリアの独立と統一を果たした英雄が本書で紹介されている"ガリバルディ"です。
最終的なイタリア統一が完成するのは1871年であり、これは日本での明治維新とほぼ時期が一致します。
こうした要因から当時の日本においてガリバルディは、同じく維新の元勲として人気のあった西郷隆盛と比較して紹介されることが多かったようです。
またガリバルディの経歴には信ぴょう性の低い神話のようなエピソードも付け加えられており、これはイタリアの英雄としての人気が高かった故に当然のことなのかもしれません。
本書ではイタリア近代史の専門家である藤澤房俊氏が、神話と実像を腑分けして等身大のガリバルディの生涯を描いています。
ここでは詳しくは触れませんが、実際に本書を読み進めてゆくとガリバルディの生涯は英雄にふさわしい起伏に富んだものであることが分かります。
現代のフランスの南東部にあるニースにおいてごく普通の家庭に生まれ、船乗りとしてキャリアをスタートしたガリバルディは南米に渡り、再びイタリアに戻り戦いに明け暮れた人生を送ることになります。
成功と挫折を繰り返しながらも頭角を表してゆくガリバルディは、やがてイタリア統一の英雄となりますが、その後は政治の舞台から離れカプレーラ島で隠遁生活を送ったという点も西郷隆盛との共通点を感じさせます。
もちろんイタリア統一を果たしたのは彼1人の力ではなく、思想面でイタリア統一の気運を作り出したマッツィーニ、政治や外交面で卓越した能力を発揮してのちに初代イタリア王国首相となったカヴールらの活躍も大きな要因です。
見方を変えれば、理想を追い求め妥協を許さなかったマッツィーニ、現実主義者でときには名を捨て実を取ることも辞さなかったカヴール、理想や現実を難しく語るよりも、とにかく勇気を持って実行あるのみというガリバルディたち3人が奇跡的な相乗効果を発揮した結果がイタリア統一へつながったのです。
イタリアの歴史家・哲学者であるベネデット・クローチェはイタリアの誕生を次のように評しています。
「もし芸術作品につかう傑作という言葉を、政治的事象にも使うとすれば、イタリアの独立と統一はまさに傑作と言うに値する」
ガリバルディはカエサルのようにすべてを兼ね備えた天才ではなく、おもに"武"の面でイタリア統一に功績のあった人物というこになります。
あとがきで著者がガリバルディの特質を上げているので紹介してみたいと思います。
心が熱く、邪気がない、単純で一面的な考え方しかできない、直感が熟慮をはるかに上回り、直情径行で、熱情にかられて行動に走る、向こう見ずで、意味もなく勇敢で、無謀な行動主義者で、非常時型の人間であった。
また、私利私欲や地位声望を求めず、清廉潔白で、天真爛漫な、大きな駄々っ子的特質は、民衆を惹きつけてやまない魅力となった。
長所、そして短所も持っているがゆえに人びとにとって身近に感じられる愛すべき人物であったことがよく分かります。