三千円の使いかた
今まで原田ひ香氏の作品は読んだことがありませんが、何年か前にベストセラー作品として本屋の目立つ場所に陳列されていた記憶がありタイトルは覚えていました。
作品の内容はずばり"お金をテーマにした小説"です。
お金といっても大企業や投資家たちのマネーゲームではなく、どこにもありそうな普通の家庭にとっての"お金"を扱っています。
本書には年代別、ファイナンシャルプランナー(通称:FP)風に言えば人生のステージ別に4人の主人公が登場します。
1人目は大学を卒業して一人暮らしを始めて数年がたつ26歳の美帆です。
彼女は適度に一人暮らしを楽しみつつ漠然と結婚を考え始めている一方で、贅沢をしているつもりはないものの貯蓄には無頓着で貯金は30万円ほどです。
2人目は美帆の祖母にあたる73歳の琴子です。
彼女には貯金が一千万円あるものの、夫との死別で年金の支給額が減っています。
今すぐに生活資金に困る心配はないものの、将来の介護などを考えると漠然とした不安を抱いています。
3人目は美帆の姉で、消防士の夫、娘と3人で都内の賃貸物件に住んでいる真帆です。
子育てのため夫の給料だけで家計をやりくりしつつ、将来的にマイホームや娘の教育資金を貯めるため計画的に節約や貯蓄に取り組み、600万円の貯金があります。
そして4人目は美帆と真帆の母であり、琴子から見ると義理の娘にあたる智子です。
子育てに一段落着いた50代の夫婦ですが、娘2人分の大学での授業料、そして結婚式費用の援助やらで気づけば貯金が100万円でしかないことに気付き愕然としています。
見て分ける通り、4人とも特別に裕福でも貧乏なわけでもなく、どこにでもいそうな人たちです。
作品中には30代のフリーターや学生時代の友人などさまざまな人物が登場しますが、経済事情も人それぞれです。
多くの読者は作品中の中に今の自分と近い立場の登場人物を見つけることができるのではないでしょうか。
ストーリーが大きく飛躍したり、大どんでん返しがあるタイプの作品ではありませんが、お金という現実的な課題に正面から向き合いつつ、地に足の着いた自分なりの幸せを実現するための日常を丁寧に描いている点には好感を持てます。
自分よりよい給料をもらっている、大きい家に住んでいる、高い車に乗っているなど、他人と自分を比べればキリがありません。
もし無意識にお金の面で他人と自分を比べてしまい、悶々としているようであれば是非本作品を読んでみることをおすすめします。
本作品は小説であると同時に、具体的かつ優しくマネープランを教えてくれる本でもあり、本書がベストセラーとなった要因になっているのかもしれません。