柳生兵庫助〈1〉
津本陽氏の長編剣豪小説です。
"柳生"という文字だけで戦国時代を代表する剣豪というイメージがありますが、本書の主人公を紹介する前に簡単に整理してみたいと思います。
新陰流(柳生新陰流)といえば、徳川将軍家の流儀として定着したことで有名になりましたが、その開祖は上野(今の群馬県)の武将であった上泉信綱です。
上泉は主家の長野家が没落したあとに剣術修行のため諸国流浪の旅に出ますが、そこで出会ったのが大和の氏族であった柳生宗厳(むねとし)です。
宗厳は昔からの盟友であった宝蔵院の胤栄とともに上泉の元で約2年の修行に励み、新陰流の印可状を得る腕前になります。
この2人は吉川英治の小説「宮本武蔵」に登場することもあり、馴染みのある人は多いかもしれません。
ともかく新陰流は宗厳からその子どもへと受け継がれ、柳生新陰流という一大流派に発展してゆきます。
宗厳の末子である宗矩(むねのり)は、のちに徳川家2代将軍・秀忠、3代将軍・家光の兵法指南役となり、一万石以上の所領を持つ大名にまで立身します。
そして本作品の主人公になるのは宗厳の孫、そして宗矩の甥にあたる利厳(通称:兵介)です。
ちなみに宗矩の息子、主人公の兵介にとって甥にあたるのが隻眼の剣士として有名な柳生三厳(通称:十兵衛)になります。
柳生利厳は宮本武蔵とほぼ同年代を生きた剣豪ですが、2人が対決としたという史実どころか出会ったという記録さえ残っていません。
武蔵は自身で二天一流という流派を開きましたが、利厳は生まれながらにして上泉信綱から祖父へ伝わった新陰流を受け継ぐ立場にありました。
2人の人生を比べたとき、前者には新しい流派を生み出す苦しみがあり、後者には一大流派を受け継ぐプレッシャーがあったという見方もできます。
この長編で兵介がどのように描かれてゆくかじっくり味わってみたいと思います。
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