太陽は地球と人類にどう影響を与えているか
私たちの大部分は月の満ち欠けと違い、太陽は毎日決まって姿を現すものであり、見た目の変化は発生しないものと思い込みながら生活しているのではないでしょうか。
私もその1人ですが、本書では国立天文台で太陽観測を中心に行っている花岡庸一郎が、最新の研究データと成果を用いて太陽を解説してくれます。
太古より太陽は地球にとって最大のエネルギー源であり、その比率は人類が電力や化石燃料を使い始めてからも圧倒的であり、実に99.97%を占めると言われています。
そもそも太陽が無ければ地球上の動物はおろか植物さえ全滅してしまうほどの極寒の世界になることを考えると、妥当な数値ではないでしょうか。
科学の歴史でいうと、人類は17世紀初頭にはじめて太陽の黒点を観測するようになりますが、それが地球へどのような影響をもたらすのかは長らく謎のままでした。
その影響が初めて認識されたのが19世紀後半であり、その原因が解明されたのは20世紀半ばになってからです。
それは太陽の黒点周辺で発生する太陽フレアにより大量のX線が放出され、地球の電離層を擾乱するこよって無線通信の障害が発生するというものです。
いわゆる磁気嵐と呼ばれているものです。
何やら難しそうですが、無線通信が携帯電話の電波、GPS、航空無線などに使われていることを考えると、私たちの生活インフラの一部になっていることが分かるはずです。
それでも私自身が磁気嵐によって困ったという経験がありませんが、最新の研究で8世紀や10世紀に大規模な太陽フレア、つまり"スーパーフレア"が発生していた可能性が示唆されており、これが現代社会で発生した場合、通信障害だけでなく、世界規模の大停電にまで至る可能性が高いと言われています。
最悪の場合、核兵器含めた近代兵器が暴走する危険性さえあるかも知れません。
つまり皮肉なことに文明社会が高度化、複雑化した結果として、人類が太陽から深刻な影響を受けるようになったのです。
本書では太陽の仕組みから、最新の研究成果、そして人類への影響といった点を専門家の立場から豊富なデータを使って解説しています。
その殆どが今まで知らなかったことであり、知的好奇心を充分に満たしてくれる1冊になっています。
有史以前より人類にとって太陽は絶対的な存在であり、各地の民族がそれを信仰の対象とし、神格化してきた歴史がありました。
そして科学の発展よって太陽の仕組みが明らかになってきた現代においても、やはり太陽は地球にとって絶対的な存在であり続けるのです。
逆転世界
久しぶりにSF作品をレビューします。
今回紹介する「逆転世界」は、SF小説の中でもかなり純度の高い作品です。
舞台となるのは「地球市」と呼ばれる、可動式の都市です。
例えるならジブリ作品の"ハウルの動く城"ならぬ"動く都市"なのです。
それも魔法の力で浮遊するわけではなく、レールを敷設して10日で1マイル(約1.6km)ずつ移動させるといった地味なものです。
彼らの先祖は地球を遠く離れた惑星に降り立ち、そこでは都市を"最適線(都市が位置すべき理想の場所)"を目的として移動させ続ける宿命にありました。
しかも最適線自体がつねに移動し続けるため、それを目指す都市も永遠に移動を止めることができないのです。
都市に住む大部分の人たちは都市の外に出ることも、外界を覗くことも禁じられた世界の中で暮らしていたのです。
都市を移動させるために尽力する人びとはいずれもギルドに所属しており、彼らのみが都市の外へ出ることが許されています。
主人公の"ヘルワード"もその1人ですが、そもそも彼を含めて何のために都市を移動し続ければいけないのかという真の理由は誰も知らないのです。
優れたSF作品は、荒唐無稽な空想世界を描いたものではなく、必ずどこかに現代社会を投影した要素が存在します。
移動する"地球市"は閉鎖的な空間ではあり、そこで暮らす人びとは厳格または暗黙のルールに従って生きてきました。
例えばそれを現代社会の中で考えてみると、それは私たちの所属する会社や学校のルールであったり、地域の慣習であったりすることに気づきます。
そうした規律は組織の中で安全・円満に過ごす上では有用なものですが、一方でそれが当たり前になり過ぎると考えることをやめてしまい、現状からの変化を恐れるようになります。
SF小説は時間の経過ともに作品設定そのものが陳腐になりやすいジャンルですが、本作品は1974年という今から45年前に発表された作品にも関わらず、今でも色褪せずに楽しめる貴重な作品です。
そもそも最適線とは何なのか?
地球市はいつまで移動し続ければいけないのか?
そしてその真の理由は?
それは作品を読んでからのお楽しみですが、これからも定期的にSF小説もレビューしてゆきたいと思います。
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