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ジャンル問わず気の向くまま読書しています。

逆転世界


久しぶりにSF作品をレビューします。
今回紹介する「逆転世界」は、SF小説の中でもかなり純度の高い作品です。

舞台となるのは「地球市」と呼ばれる、可動式の都市です。

例えるならジブリ作品の"ハウルの動く城"ならぬ"動く都市"なのです。

それも魔法の力で浮遊するわけではなく、レールを敷設して10日で1マイル(約1.6km)ずつ移動させるといった地味なものです。

彼らの先祖は地球を遠く離れた惑星に降り立ち、そこでは都市を"最適線(都市が位置すべき理想の場所)"を目的として移動させ続ける宿命にありました。
しかも最適線自体がつねに移動し続けるため、それを目指す都市も永遠に移動を止めることができないのです。

都市に住む大部分の人たちは都市の外に出ることも、外界を覗くことも禁じられた世界の中で暮らしていたのです。

都市を移動させるために尽力する人びとはいずれもギルドに所属しており、彼らのみが都市の外へ出ることが許されています。
主人公の"ヘルワード"もその1人ですが、そもそも彼を含めて何のために都市を移動し続ければいけないのかという真の理由は誰も知らないのです。

優れたSF作品は、荒唐無稽な空想世界を描いたものではなく、必ずどこかに現代社会を投影した要素が存在します。

移動する"地球市"は閉鎖的な空間ではあり、そこで暮らす人びとは厳格または暗黙のルールに従って生きてきました。

例えばそれを現代社会の中で考えてみると、それは私たちの所属する会社や学校のルールであったり、地域の慣習であったりすることに気づきます。
そうした規律は組織の中で安全・円満に過ごす上では有用なものですが、一方でそれが当たり前になり過ぎると考えることをやめてしまい、現状からの変化を恐れるようになります。

SF小説は時間の経過ともに作品設定そのものが陳腐になりやすいジャンルですが、本作品は1974年という今から45年前に発表された作品にも関わらず、今でも色褪せずに楽しめる貴重な作品です。

そもそも最適線とは何なのか?
地球市はいつまで移動し続ければいけないのか?
そしてその真の理由は?

それは作品を読んでからのお楽しみですが、これからも定期的にSF小説もレビューしてゆきたいと思います。