「最期は自宅で」30の逝き方
若い頃は「死」というものを概念的に想像することはあっても、自分自身の死について具体的に考えたことがある人は少ないのではないでしょうか。
やがて中年に差しかかり、家庭を持つ人が出てきて子どもが成長し、両親が高齢になってくると「死」を具体的に考える機会が増えてくるはずです。
自分が何らかの病気で人生の最期を迎えるとき、無機質な病院の一室で点滴や人工呼吸器、心電図モニターに繋がれたまま1人で死んでゆくのを望む人はいないと思います。
出来ることなら自宅で家族に見守られながら最期を迎えることを望み、たとえ独り身であったとしても病院よりも自宅で最期を迎えたいと考える人は多いはずです。
現時点では健康体ではあるものの、こうしたことは元気なうちに考えておいた方が良いため、本書のタイトルだけを見て手にとってみることにしました。
本書の著者である高橋浩一氏は広島市の開業医であり、在宅緩和ケアを積極的に展開しています。
"在宅緩和ケア"とは病院ではなく、住み慣れた自宅で病気による身体や心の苦痛を和らげるケアを行いながら、自分らしい生活を送れるよう支援する医療サービスのことです。
実際には末期がんや老衰の患者が利用する場合が多く、本書はタイトルにある通り、著者が実際に在宅緩和ケアで担当した30例の最期を紹介したものとなります。
事例を見てゆくと80代、90代の事例が多いですが、中には60代の事例もあったりします。
ピンピンコロリ(最後は寝込まずにコロリと死ぬこと)を望む人は多いと思いますが、皮肉なことに医療の進歩によってネンネンコロリ(寝たきりの要介護状態を経たのちに死ぬこと)が増えているのが実情です。
この辺りは自分で決めるこは出来ませんが、本書では1年以上も在宅緩和ケアを続けた上で静かに最期を迎えた例も多く、必ずしも悲観する必要はありません。
大切なのは、早い段階で周りの家族を含めて在宅緩和ケアを望むことをはっきり意思表示しておくことです。
それは認知症が進んだ状態、言葉を発することが出来ない状態に陥ってからでは伝えることが難しいからです。
著者は在宅緩和ケアの患者へ対して、お菓子やアイス、またお酒であっても好きに口にしてよいとアドバイスしているようです。
たしかに病院では食欲がない中で入院食を食べる気にはなりませんし、飲酒は禁止されています。
好きなものを食べて飲むという行為は、自分らしく生きる上でもっとも基本的な部分だと思います。
漠然としか知らなかった在宅緩和ケアの実態を手軽な形で知ることができるのは"新書"の持つメリットであり、実際に2時間もあれば読み終わる分量でもあるため、多くの人に手にとって欲しい1冊です。
