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坂の上の雲〈8〉

坂の上の雲〈8〉 (文春文庫)

長かった「坂の上の雲」もいよいよ最終巻です。

この小説で主に取り上げられた日露戦争は、かろうじて日本の勝利に終わりました。

いざ開戦となれば決して強制されたわけでもなく、戦争反対派を含めた内閣や経済界が自然と団結してロシアとの戦争に立ち向い、皇帝の独裁状態だった当時のロシアとは国力では劣っていてもチームワークの面では断然優れており、これが最大の勝因だったと思います。

そこには当時の政治家や軍の首脳陣たちの優れたバランス感覚が見てとれます。


軍備を増強し、智慧を振り絞って戦略と戦術を練り、外交においては日英同盟を結ぶことでロシアに近いフランスをけん制し、更にはアメリカとも友好関係を結びロシアとの停戦をルーズヴェルト大統領に仲介してもらうといった、一貫性・合理性のある判断で貫かれていました。


確かに現場の指揮官や兵士たちも勇敢でしたが、日本の国政を預かる人たちが決して精神論に偏った判断を下すことはありませんでした。


それは明治時代の人たちが単純に頭脳明晰だったというわけでも、強靭な精神力があったというわけでもなく、当時の首脳陣たちが約260年続いた徳川幕府の終焉という価値観の激変を経験した上で、当時の列強国によるアジアの植民地化政策を目の当たりにして抱いた危機感が根本にあったと思います。


そんな彼らにとって国体は簡単に覆ってしまいかねない不安定なものであり、決して日和見的な態度では乗り切れないという現実を過去の実体験を通して認識していました。


一方で自国より強大な相手と戦い勝利した日清・日露戦争の良い面のみが都合よく解釈され、机上の空論や偏った精神論がバランス感覚を狂わせ、後の太平洋戦争敗北へと繋がってしまったのかもしれません。


また日露戦争当時と現在を強いて比較すれば、東日本大震災、及び原発問題による日本の危機といった状況は重なる部分があります。

日露戦争を遂行したのは「第1次桂太郎内閣」でしたが、当時の桂も今の総理と同じで国民からの人気が無く、二流内閣といった酷評を受けていた部分も妙に似ています。


戦前の反戦派には伊藤博文という今の小沢一郎などとは比べ物にならないくらいに発言力のある人物がいましたが、彼に限らず開戦となれば党利や党派を超えた協力体制で戦時を乗り切りました。


そんな中で党内外から総理退陣といった声が紛糾している現状は、悪い意味で党利や党派を超えた動きであると感じるのは私1人だけでしょうか?


票集めのパフォーマンスや議席争いの駆け引きなどはどうでもよく、大山や東郷、秋山兄弟といった日本の未来を真剣に考える優秀な人材さえ登用すれば、総理大臣は誰でもよいというのが個人的な感想です。