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金正日と金正恩の正体

金正日と金正恩の正体 (文春新書)

北朝鮮
最も近い国の1つでありながら、その実態は謎のベールに閉ざされており、日本人にとって馴染みの薄い存在です。

しかしながら北朝鮮の動向は世界中から注目を集めており、日本を含めた東アジアの平和は、この国が握っているといっても過言ではありません。

それにも関わらず、日本人の関心は薄いというのが個人的な印象です。

「金正日(キム・ジョンイル)による独裁国家」
「時代遅れの軍国主義を掲げている国」
「極端な思想統制を敷いた自由の無い国」
「経済の崩壊した国」


こういった印象だけで北朝鮮を判断するのは危険です。

兵士の数は日本の自衛隊の約5倍、(一説には、2.5兆円ある)GDPの半分以上を軍事費に費やし、核兵器を保有している北朝鮮の戦力は決して侮れないものです。

だからといって安易に日本の軍備増強を訴えるつもりはありませんが、北朝鮮との核保有問題を話し合う六カ国協議のメンバーである日本にとって、北朝鮮を知るということは国民の意識として必要なことだと思います。


北朝鮮という得体の知れない国を理解するために手助けとなる書籍は多く、中には北朝鮮を揶揄するかのような偏った本もありますが、本書は日本の大学で教授をしている中国人学者によって、北朝鮮の歴史と現状を、著者自身が出来る限り客観的に分析しようと努めている姿勢が伝わる良書だと思います。

北朝鮮の建国の父といわれる金日成(キム・イルソン、金正日の父)は関東軍が実質的に支配する満州国に対抗した抗日パルチザンの主要メンバーの1人であり、北朝鮮(正確には朝鮮民主主義人民共和国)建国の背景に日本が深く関わっていました。

分かり易くいえば、過去の日本軍の朝鮮半島への進出、実質的な支配が無ければ、現在の金一族による北朝鮮政権は存在しなかったのです。


金正日
による支配体制は強力であり、すさまじい静粛や緻密な体制維持のための政策が世界に類を見ない安定した独裁政権を築いてきました。

北朝鮮は一般的には社会主義国家といわれていますが、実質的には完全な独裁国家であるといえます。


経済が崩壊し、深刻な食料不足の中でも核兵器を所有した朝鮮人民軍の戦力は健在ですが、金正日の健康状態が優れないという情報(実際、本書では金正日の寿命が5年以内と予測しています)が報道される中で、後継者と目されている金正恩(キム・ジョンウン)は20代の若者であり、世界中で今後の動向が注目されています。


独裁国家の良し悪し以前に、国民の大部分が餓えている中で一部の支配層が私服を肥やす今の状態が健全でないことは確かです。

六カ国協議に参加する日本にとって北朝鮮問題の解決は、長期的に見れば景気問題以上に深刻な問題であり、全力で解決に取り組むべき課題であることが明白であることを示唆している1冊です。