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高橋是清自伝(上)


高橋是清は明治・大正、そして昭和にかけて大蔵大臣を7回努め数多くの実績を残した財政家、そして政治家です。

1929年(昭和4年)の昭和恐慌では、インフレ政策をはじめとした積極財政によって日本経済を回復させたことで知られていますが、のちに軍事費抑制方針をとったことで軍部と対立し、2・26事件で暗殺されることになります。

自伝といえば自らが執筆するような印象がありますが、実際には是清の秘書官であった上塚司によって書き上げられたものです。
ただし是清自身が口述したものを手記にし、原稿に仕上げた後に再度本人へ確認して完成させた本であるため、タイトルにある通り"自伝"といっても差し支えないものです。

彼は叩き上げの財政家ですが、いわゆる東大を出て官僚として活躍する現代風の"叩き上げ"ではありません。

まず少年の頃に(仙台藩の)藩命によってアメリカ留学することになりますが、ホームステイ先で留学費を着服された上に農場で奴隷のように働かされる不運に見舞われます。

一方でそうした苦難の時代に英語を身に着け、のちに国際舞台で活躍する下地を身につけてゆきます。

帰国したのちは英語教師を努め、農商務省では初代特許庁長官として日本の特許制度の礎を築く功績を残し順調なキャリアを築いてゆくように思われましたが、突如官僚を辞め、ペルーへ渡航し仲間とともに銀鉱経営に乗り出しますが、そこはすでに廃坑だったことが分かり、散々な結果に終わります。

失敗したとはいえ、そこで培った実業家としての経験は決して無駄にならなかったはずです。

つまり高橋是清のキャリアは波乱万丈な"叩き上げ"であり、必然的にその自伝は読み応えのある内容になっています。