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信長はなぜ葬られたのか



表題から推測できる通り、作家である安部龍太郎氏が本能寺の変における織田信長暗殺の真相に迫ってゆくという1冊です。

本能寺の変といえば明智光秀が主君・信長へ対して憎悪と危機感を抱いて反旗を翻したというのが一般的で無難な見方です。

しかし著者は、信長暗殺という壮大な計画は何年の前から用意周到に準備されたものであり光秀はその実行を担当したという、いわゆる"陰謀説"を主張しています。

その黒幕は朝廷(天皇)室町幕府であり、またもう1つの軸としてスペインを中心としたキリスト教勢力であるというものです。

やはり歴史好きとしては、こうした新しい時代検証の本は非常に興味があり、ついつい手にとってしまうのです。

たしかに信長は良くも悪くも”破壊と創造”が象徴にされるだけあって、少なくとも(天皇に代表される)朝廷や(比叡山に代表される)宗教といった旧来の勢力へ対して盲目的に従うような姿勢は見せませんでした。

これをさらにもう1歩踏み込めば、信長は天皇(朝廷)権力へ挑戦し、そしてキリストを含めたすべての神仏の存在を否定したといった見方ができ、そこまでは本書を読むまでもなく信長の残した言動からも説得力があります。

しかし著者の陰謀説はさらにその先を読み、凋落していたと思われていた当時の朝廷勢力や室町幕府には実際かなりの権威や実力が残っており、世界史規模で勢力を伸ばしつつあった(イエズス会やフランシスコ会といった)キリスト教勢力についてもその影響力は侮れないものであったという点から、彼らによる"信長暗殺計画"を考察してゆきます。

その根拠となる部分は本書の醍醐味であり、ネタバレとなるため触れませんが、ともかく興味深く読むことが出来ます。

著者の安部龍太郎氏は作家であるものの、歴史家(学者)ではありません。
だからといってそれを作者の妄想や根拠が薄いと片付けてしまっては読書の魅力は半減してしまいます。

著者の信長暗殺に関するユニークな見解を新書という手軽な形で楽しめるという点で、おすすめできる1冊です。