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高橋是清自伝(下)


引き続き高橋是清自伝下巻のレビューとなります。

本自伝では彼がもっとも世間から注目された総理大臣、大蔵大臣時代には触れられず、政界へ乗り出す前の日銀副総裁時代までが対象となっています。
それでも本書は上下巻をあわせて600ページ以上にも及ぶ大作になっています。

その要因は彼の目立った実績のみをクローズアップする形式ではなく、詳細な記録が自伝の中に含まれているからです。

そこには日付や場所、そこに登場する人物だけでなく、彼らの発言した内容、その時の是清自身の感想にまで触れられており、それを可能にしたのは彼が残した多くの手帳だったのです。

そのため自伝というノンフィクションであるものの、まるで歴史小説のように読むことができるのも本書の特徴になっています。

その記録がもっとも細かく描かれるのが、自伝のクライマックスともいえる欧米における外積発行の過程です。

日露戦争において日本は、経済・軍備いずれにおいても自国を大きく上回る大国ロシアを敵に回すことになりました。

貧弱な財政状況の中でこの戦争を継続することを可能にしたのは、日銀副総裁としてアメリカ、イギリスさらにフランス、ドイツにまで赴いて日本の外積発行を行い、それを成功させた高橋是清の功績によるところが大きいのです。

もちろん最前線で戦ったのは軍人ですが、是清はそれを支えた影のMVPといってもよいかもしれません。

大国ロシアを相手に東洋の小国と見なされていた日本が勝利することはかなり懐疑的であり、その中で外積による戦費調達を成功させた苦労は自伝の中から充分に読み取ることができます。

有名な旅順要塞の攻略、そして日本海海戦(対馬沖海戦)は綱渡りの勝利でしたが、それは財政面においてもまったく同じ状況だったことが分かります。

その時の勝利を過信してはいけないことは最前線にいた是清だからこそよく分かっていたことであり、のちに軍事費の増加に歯止めをかけようとした彼が暗殺の標的にされてしまったことが悔やまれます。

結果として突入していった第二次世界大戦では、日本は財政のみならず国防までもを破綻させ、多くの犠牲者を出すことになります。