レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

中国古典の言行録



中国歴史小説の第一人者である宮城谷昌光氏が、ビジネスマン向けに中国古典の名言を紹介している1冊です。

いわゆるビジネス書、自己啓発本と呼ばれるジャンルですが、歴史小説作家がこうした類の本を執筆する例はよくあります。

人の一生、つまり人生を学びたいと思った場合、本質的に同時代を生きている人から学ぶことは難しく、また非効率です。

歴史は過去に生きた人間たちの記録といってもよく、そこには偉人や聖人もいれば、非業の死を遂げた人も星の数ほどいます。
つまり歴史は、東西古今問わず彼らの完結した人生を知ることのできる最も効率的な教科書であり、歴史小説作家はその専門家であるという見方ができます。

本書では論語、老子、孫氏、荀子、韓非子、史記、三国志といったメジャーな中国古典、また晉書、三事忠告、貞観政要といった少しマイナーな古典から実に50以上もの名言が紹介されており、以下のようにジャンルごとに章立てされています。

  • 自己啓発
  • 日常の心得
  • 人間関係
  • 指導者への帝王学
  • 経営戦略

中国古典の名言の魅力を一言で表せば、無駄を究極的に削ぎ落とした文体でありながら、その意味するところが実に奥深いという点です。

例えば本書で紹介されている名言に次のようなものがあります。

不知無如(知る無きに如かず)

これは異例の抜擢により宋の宰相となった呂蒙正の言葉ですが、経営者向けの名言として紹介されています。

トップになれば影で悪口を言われるのは当然であり、それが抜擢人事であればなおさらです。

しかしなまじ言った本人を突き止めてしまえば、その人を能力ではなく感情で判断してしまう要因になってしまい、有能な人材を用いることができなくなることを諌めた言葉です。

何でも知りたがるのが人の性ですが、中には知る必要のないネガティブな性質の情報が存在することをはるか昔に生きた人は知恵として身に付けていたのです。

こうした金言をたった4文字で表現しているのが中国古典の魅力といえるでしょう。

ビジネス書としてはもちろん歴史エッセイとしても楽しめる1冊になっています。