レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

戦争で死ぬ、ということ


人類の歴史は戦争の歴史である」という言葉がある通り、歴史の教科書を開いても武力によって国家や王朝の興亡が繰り返されてきたことが分かります。

こうして戦争は有史以来繰り返されてきたわけですが、近代戦争、具体的には第一次世界大戦以降、戦争の質が大きく変化したと言われています。

その背景には、製品の技術革新や大量生産を可能にした産業革命があり、より簡単により大量に人を殺戮できる兵器が登場したことが挙げられます。

また近代戦争は、総力戦の形態を取ることが多く、軍事力のみならず内政や外交、技術や思想といった国家の持つあらゆる資源を戦争へ投入するようになりました。

簡単に言えば、より大量の資源を消費し、より大量の死傷者を生み出す戦争が行われるようになりました。

もちろん戦争を行う指導者たちは正義は自分たちにあると信じており、祖国のために喜んで犠牲になる兵士がいることも事実です。

本書は戦争の正義がいずれにあるのかを論じているわけではなく、ただひたすら戦争の実態を描き、それを読者へ問いかけるというスタイルをとっています。

戦後生まれの著者は戦争体験者に取材を重ねることで、その生々しい実態を描き出すといった手法を取っています。そしてその内容は、少し想像力を働かせれば直視に耐えられない光景であることが分かります。

  • 空襲で頭が半分吹き飛んだまま、数メートル走り続け倒れて死んだ少年
  • 座って赤ちゃんを抱きしめたまま首が無くなって死んでいる女性
  • 淀川に浮かぶ何十個もの生首
  • 病気と空腹で動けず密林の中で次々と手榴弾で自決する兵士たち
  • 息絶えた子供を固く抱きしめ狂気の如く叫びながら走る母親

また本書では愛国という旗印の元で、女性たちが経験した戦争時代も描かれています。

当時の人気歌手・美ち奴が歌った「軍国の母」の歌詞を見れば世相を知ることができます。

こころおきなく祖国のため
名誉の戦死頼むぞと
涙も見せず励まして
我が子を送る朝の駅

一方で現在においても戦争賛美とまでは行かなくても、関係が悪化しつつある隣国へ対しての武力行使もいとわないといった意見も見受けられます。

血気盛んな若者の声というなら分かりますが、個人的に親が戦争を経験している団塊世代の人からこうした意見を直接聞いたときには驚いた記憶がありましたが、おそらく発言した本人に戦争の実態への想像力があるとは思えませんでした。

いずれにせよ戦争の想像と現実の間にあるギャップを確認してみるだけでも本書の価値はあると言えます。