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テンプル騎士団



テンプル騎士団を大雑把に説明すれば中世ヨーロッパの僧兵ということになります。
つまり宗教団体と軍隊が密接に結びついた組織という点で一致していますが、両者にはかなりの相違点もあります。

まずはブリテン島からアラビア半島、エジプトに至るまで広範囲に渡り、国境を超えて活動していたという点です。
比叡山に立て篭もる僧兵とはかなり活動範囲が異なります。

また農業や酪農、金融や運送といった分野にまで進出し、ヨーロッパ随一と言われるほどの経済力を誇っていたという点です。
今でいえばグローバル大企業ということになります。

次に聖地エルサレムを巡るキリスト勢力と力イスラム勢力との戦いにおいて、十字軍と呼ばれたキリスト側勢力の中心戦力として活躍し続けたという点です。

テンプル騎士団の団長はフランス国王やイギリス国王、ドイツ皇帝と肩を並べられる程の存在であり、多くの国でヒーローのように讃えられたという点でも僧兵のイメージとはだいぶ異なります。

本書は多くの西洋を舞台とした歴史小説を手掛けている作家の佐藤賢一氏が、テンプル騎士団を解説した1冊です。

小説のように物語調でテンプル騎士団を紐解いてゆく本だと思ったのですが、実際には西洋史の専門家のように文献や時代背景を元にした細かい解説が中心となっている点は意外でした。

テンプル騎士団の成り立ちからその終焉までを追ってゆくのはもちろんですが、彼らの組織管理手法や経済活動まで多角的に分析しています。

とにかくヨーロッパおいて最強の武力と経済力を持つ組織として頂点に上り詰めたテンプル騎士団ですが、聖地を巡礼するキリスト教徒が安全に旅ができるよう、たった2人でパトロールのボランティアを始めたのがきっかけでした。

テンプル騎士団の印章は1匹の馬に2人の騎士がまたがっている姿が図案となっていますが、それもボランティアを始めた2人が住む場所もないほど貧乏で、馬も2人で1頭しか用意できなかったことに由来しています。

テンプル騎士団の成長過程を見ていくと、ガレージで起業して世界的大企業へと成長したグーグルやアップルとテンプル騎士団が重なって見えてしまします。

ただし国家をも凌ぐ経済力を持ったテンプル騎士団もやがて崩壊せざる得なかった事実を考えると、世界を席巻するビッグ・テックを呼ばれる企業もやがて衰退する時が来ることを示しているのかも知れません。

もちろん本書ではここまで言及していませんが、中世ヨーロッパの歴史を彩ったテンプル騎士団を知る上で手助けとなる1冊なのは間違いありません。

ちなみにテンプル騎士団と同時代に活躍したもう1つの聖ヨハネ騎士団については、塩野七生氏の「ロードス島攻防記」が歴史小説としてお勧めです。