レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

呉漢(上)



紀元前221年、秦の始皇帝が初めて中国を統一しますが、この王朝はわずか15年後で崩壊します。

いわゆる項羽劉邦の時代が始まり、この戦いに勝利した劉邦が秦に続いて中国を再び統一しを建国します。
この王朝は約400年もの間繁栄することになります。

世界史の教科書にある通り知っている人も多いと思いますが、この漢はちょうど200年間を境に前漢後漢とに別れます。

それは漢という王朝が途中で一度滅んでしまうからです。

前漢が滅んだ時点で再び群雄割拠の戦乱時代が到来しますが、その戦いを制したのが前漢の第6代皇帝・劉景の血を引く劉秀(りゅうしゅう)でした。

彼の片腕として、またもっとも信頼の置ける将軍として活躍したのが、本作品の主人公である呉漢(ごかん)です。

彼は貧しい家の出身であり、もし前漢が滅ぶことがなければ歴史上では名もなき民として生涯を終えるはずだった境遇の人間でした。

劉秀にしても戦乱の世が訪れなかったら、中央に出ることなく地方でのみ知られた名家の1人として人生を終えていたに違いありません。

実際に作品の冒頭で呉漢は、家族を養うため領主の経営する大農園で働く小作農民として登場します。

しかも彼には、人並み外れた武芸の才能があるわけでも、学問に励むということもしていない、特筆すべき人物ではありませんでした。

ただし1つ彼の長所を挙げるとすれば、人一倍熱心に働くことだけが取り柄でした。

社交的で周りを巻き込むタイプでもなく寡黙だった呉漢ですが、彼が一途に働く姿を見て声をかけてくる人が現れ始めます。

やがてさまざまな人の縁で彼は亭長に抜擢されることになりますが、これは地方の宿駅の管理や警察署長といった役職であり、中央から見れば取るに足らない役人の1人に過ぎませんでした。

亭長といえば前漢を興した劉邦も一時経験した役職でもありました。

そんな呉漢がやがて戦乱の世へ乗り出し、天下の大将軍となるまでの軌跡を描いた歴史ロマン小説です。

古代中国史を舞台にした歴史小説を書かせたら右に出る者のいない宮城谷昌光氏の作品だけに、読者の期待を裏切らない出来栄えに仕上がっています。