本と戯れる日々


レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

メディアの興亡 上


ノンフィクション作家である杉山隆男氏は自衛隊を取材したルポ"兵士シリーズ"が有名で本ブログでも紹介していますが、彼の出発点は新聞記者でした。

本作品「メディアの興亡」は新聞記者を辞めてから作家へ転身したあとのデビュー作であると同時に、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した出世作でもあります。

1986年(昭和61年)に発表された本作品で扱っているのは、かつて彼自身が身を置いていた新聞社であり、中でも大手新聞社といわれる読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、日本経済新聞が昭和30年代後半から昭和40年代にかけて経験した激動の時代を扱っています。

戦前から長い期間に渡って新聞は大衆メディアの頂点に君臨し続けていましたが、ラジオやテレビの登場とともにその地位は少しずつ揺らいでゆくことになります。

昭和30年代に入り新聞業界はほかの産業分野と比べて機械によるオートメーション化が遅れている状態で、戦前から続く鉛の活字を人手で1つずつ並べて版を作る活版印刷が中心でした。

さらに通信技術も未発達だったため、新聞本社には新聞記者のデスクと巨大な輪転機を設置する工場を同じ建物内に同居させる必要があり、都心に広大な土地が必要でした。

本書の前半では大手新聞社が全国的に部数を伸ばしてゆく歴史が語られており、さらには時代に取り残されつつある新聞業界を改革してゆくために立ち上がった経営者や技術者たちの物語へと展開してゆきます。

中でも日本経済新聞社は、いちはやく紙面をコンピュータで製作するプロジェクトを立ち上げ、米国のIBM社とともに技術研究を進めてゆきます。

コンピュータ化といってもインターネットが登場するはるか以前の時代だったため、現在と比べるとその性能は著しく低く、複雑な紙面を作成するためには多くの技術的な障壁がありました。

一方で活字を廃止するという方針は、工場で働く多くの社員たちが不要になることも意味しており、労働組合などから激しい抵抗を受けることになります。

新聞業界が経験した昭和の激動を綴ったスケールの大きなドキュメンタリーであり、上下巻で800ページという大作でありながらも読者を夢中にさせてくれます。