本と戯れる日々


レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

師匠


本書は落語家の立川志らく師匠が、自らの師匠・談志について語った1冊です。

私自身は昔からの落語ファンではないため、音声や動画を通じて談志師匠の落語を聴いたことはありますが、生で聴いたことはありません。

落語の良し悪しには詳しくありませんが、十八番である「らくだ」、「芝浜」の迫力は動画からも伝わり、談志にしかできない落語という印象を受けます。

また音声で30代の頃の落語を聴いてみても、キレのある畳み掛けるような話芸はとても若手の噺家とは思えない技術と貫禄が感じられます。

一方で自分が落語家を志望して誰かに弟子入りすると考えた場合、談志師匠は選びたくないなと思ってしまいます。

それはよく知られているように、破天荒な言動や短気な性格という印象があり、とにかく面倒臭そうだからです。

実は入門前の志らく師匠もまったく同じことを考えていたようで、はじめは金原亭馬生師匠(昭和の名人・古今亭志ん生師匠の長男)へ弟子入りするつもりでしたが、弟子入りする前に馬生師匠が亡くなってしまい、たまたま入った池袋演芸場で出番のあった談志師匠の落語を聴いてシビレてしまい、弟子入りを決意したそうです。

そして実際に弟子入りして毎日師匠の家へ通うようになると、予想通りというべきか色々な場面でカミナリを落とされる日々が続きます。

弟子の立場から見ると理不尽としか思えないようなことばかりですが、どんな場合でも談志独特の価値観に基づいたものであり、弟子の中で唯一師匠の家に通い続けて家事やカバン持ちをしているうちに、その考えか少しずつ理解できるようになってきます(ちなみにほかの弟子は人間修行と称して築地の魚河岸へ送られていたそうです。)。

志らく師匠は兄弟子の中でも年齢の近い談春師匠と行動を共にすることが多く、兄弟子たちとの二つ目昇進のための試み、晴れて二つ目となり祝賀パーティーにまつわる話、その他数々のエピソードなどを読んでいると、苦労しながらも青春小説のような爽やかさを感じてくるから不思議です。

たまに談志師匠が弟子の反論に合って言葉に詰まる場面や、珍しく弟子を褒める場面などもあり、理不尽一辺倒ではない師匠の優しさが垣間見れるのもポイントです。

しかし師匠と弟子の関係は永遠に続くものではなく、ガンを患い声が出なくなってきた談志師匠の晩年に差し掛かると別れを予感した寂しさが滲んでくるようになります。

その頃は志らく師匠を含め弟子たちは真打ちとしてそれぞれ忙しい日々を過ごしていることもあり、カバン持ちの頃のように病身の談志師匠に付き添うこともできません。

そして言葉も交わすことも出来ないほど衰弱した師匠との最後の対面は本作品のクライマックスだといえます。

作品からは弟子たちの中でもっとも長く談志師匠の側にいた志らく師匠は、もっとも師匠を理解し、そして自分が師匠からもっとも評価されていたという自負が感じられます。

同時に「それは勘違いだ」、「思い上がりだ」という兄弟子やファンたちの声が聞こえてきそうですが、そうした批判も覚悟した上での作品であることも感じられました。