いちのすけのまくら
春風亭一之輔師匠が週間朝日で2014年5月から2017年6月まで連載していたエッセイを書籍化したものです。
当時は真打ち昇進から1年ほど経過した時期で、「笑点」メンバーになる以前の連載ということになります。
「笑点」はたまにしか見ませんが、私が知る限りすこし強面の顔での毒舌キャラ(なかでも司会の昇太師匠が標的になることが多い)という側面と、飄々としながら時事ネタで笑いを取る一面があり、今や完全に番組に馴染んでいる「笑点」の欠かせないメンバーになっているというイメージです。
さらに年間800~900席という数の落語をこなしながらも「最もチケットの取れない噺家」としても知られており、紛れもなく落語会のトップランナーの1人です。
これだけの活躍をしていると努力家でストイックな噺家という印象を受けますが、実際に本書を読んでみると「芸」へ対して厳しい一面は殆ど見せず、完全に脱力系のエッセイになっています。
しかもここに連載されているエッセイは手書きの原稿という形ではなく、寄席の合間で立ち寄った喫茶店や移動時間などを利用してガラケーでひたすら文字を打ち込んで連載を続けていたといいます。(さすがに今ではスマホを使用していると思いますが。)
忙しい毎日の中で週1回といえども連載を続けるのは大変だと思いますが、落語には"まくら"という本編に入るまでのフリートークを行うのが慣例としてあります。
前座や年配の噺家であれば"まくら"を最小限にしたり、演目と関連した定型的な内容を喋ることも珍しくありませんが、やはり最近の出来事や時事ネタの方がウケると思います。
つまり本書のタイトルにある通り"まくら"のネタを作る習慣のある噺家にとって、エッセイの連載も同じような作業ではないかと推測できます。
実際に連載の中でも時事ネタを使って落語の登場人物(熊さん、八っつぁん、ご隠居さんなど)に演じさせて、そのまま"まくら"に使えるような回もあります。
また先輩・後輩とのやり取り、家庭での出来事、前座や学生時代の思い出などを話題に出すことも多く、噺家らしく毎回最後にオチを付けて終えるという形をとっています。
また著者は本書の解説をビッグネームへ頼むのが恐縮だと思ったのか、自分の高1の長男に書かせるといった試みも笑わせてくれます。
(しかもその解説がよく書けているので驚きです。)
よって深い話は殆ど掲載されていませんが、色々な話題について気楽に読むには最適な1冊だと思います。
ちなみに私は一之輔師匠は間違いなく影で努力するタイプの噺家だと思っていますが、エッセイからはそうした姿を微塵も感じさせないのは、彼自身の美学なのかも知れません。
私自身はまだ一之輔師匠の落語を生で聴いたことはありませんが、なるべく近いうちに噺を聴きに行きたいと思います。
