レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

燃えよ剣〈上〉

燃えよ剣〈上〉 (新潮文庫)

新選組副長の土方歳三を主人公とした司馬遼太郎の代表作の1つです。

局長は言わずと知れた近藤勇ですが、実質的に新選組を運営していたのは土方歳三というのが定説であり、新選組そのものが彼の分身であるかのような印象さえ受けます。

幕末の志士たちの政治思想は尊皇攘夷が主流でしたが、土方歳三に政治的思想はなく、ひたすら新撰組の規律の中にある「士道に背きまじきこと」に代表される武士としての生き方を体現し続けました。

江戸時代という平和な時代が長く続いたこともあり、その末期に至っては多くの武士が形式的な「事なかれ主義」に陥っているのに対して、忠誠を重んじて臆病を罪とする最も厳しい規律を背景に持った新選組の存在はひときわ異彩を放っています。

最盛期でも二百名に満たない人数でありながら、明治維新の震源地であった幕末京都おいて討幕派の志士たちに恐れられた事実は、裏返せばそれだけ新選組が少数精鋭の優れた組織であったという証拠です。

個人的には山南敬助が切腹し、伊東甲子太郎が新選組を脱退するまでが新選組の全盛期だと思いますが、この上巻では新選組の成立から全盛期までが舞台となっています。

敵へ容赦が無いのはもちろんですが、有能であっても隊の規律に反した人間へ対して冷血な粛清を行う姿は今の価値観からは非人間的にさえ見えますが、見方を変えれば幕府やその親藩である会津藩へ対して、これほど忠誠を尽くした組織もありません。

そして最も忠誠を示したのが幕府譜代の家臣ではなく、武州の百姓出身である土方歳三をはじめとした新選組の幹部であった部分に歴史の面白さを感じます。