燃えよ剣〈下〉
新選組がいかに優れた組織であっても、明治維新という時代の大きな変革期において旧体制側に属している以上、その流れに逆らうことは出来ません。
局面の進行に伴い尊王討幕の思想が支配的になりますが、最も強固な佐幕派である新選組でさえも無縁でいられません。
新しい時代の足音が聞こえ始める中で、新選組のトップである近藤勇が朝敵となることを恐れて動揺を見せますが、この時から彼と新選組の運命も坂道を転げ始めます。
もちろん副長である土方歳三も例外ではありませんが、近藤と違い仲間たちが次々と斃れる、もしくは脱退してゆく絶望的な状況においても自らの生き方を貫き通し続け、むしろ劣勢になってから一層の輝きを見せるところに彼の魅力があります。
歴史小説であるがゆえの多少の脚色はあるでしょうが、たとえ歴史的な敗者となっても喧嘩では決して降参はしないという、思想を超えた男としての意地を死の瞬間までストイックに実践する姿にはある種の感動を覚えます。
幕末という激動の時代が新選組を生み、近藤・土方のバックボーンを考えると新選組みの悲劇的な末路は必然的であったと言えます。
本書は新選組を主な物語の舞台としながらも、土方歳三という男がいかに幕末の変動期を生き抜いたかをテーマにした作品であり、読者へ対して「男がいかに生きるかということは、いかに死ぬかを考えることである」という問いかけを投げかけているように思えます。
世の中に氾濫する薄っぺらい処世術の本よりも、こういった作品から自分なりに何かを得るということが大切であると感じさせてくれる1冊です。
私自身何度か本書を読み返していますが、その度に少しずつ違った感想を抱かせてくれる名作です。