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葬式にお坊さんはいらない

葬式にお坊さんは要らない―日本の葬式はなぜ世界で一番高いのか (日文新書 64)
現代の日本人にとって冠婚葬祭の中でもとりわけ結婚式葬式は重要なものとして捉えられているのではないでしょうか。

結婚式は最近登場した「スマ婚」をはじめ、人前式など多様化が目立ちますが、未だに葬式については斎場にお坊さんを呼んで読経をしてもらい、寺や宗旨宗派を問わない永代供養の墓地へ納骨するのが一般的ではないでしょうか。

著者はその葬式のあり方について、副題に「日本の葬式はなぜ世界で一番高いのか」と付けたように、問題提起を行っています。

日本人の9割は仏教徒でありながら、年末年始や観光以外に宗教上の活動拠点ともいえる寺院へ訪れる機会が少ないのではないでしょうか?


一方で日本には7万にものぼる寺院があり、その収入の殆どを檀家からの"お布施"によって賄われているという現実があります。
(日本のコンビニの数が4万強であることを考えると、その数の多さに驚きます)


著者は従来の葬式を簡素化した"直葬"を紹介する傍ら、檀家の減少により多くの寺院が廃業に追い込まれる将来を示唆しています。


宗教の本来の役割は人を幸せに導くこと、分かり易くいえば生きる上での悩み解消することですが、現代ではカウンセリングや精神科医をはじめとした様々な専門家がいることから、寺院へ対して悩み相談を行う機会も減っています。

また多くのボランティア団体の登場により、仏教が人々を救済するというイメージも薄れつつあります(個人的にはキリスト教系の団体の方がボランティア活動に積極的という印象があります)。


お経の意味はともかく、自分の宗派の宗旨や歴史を説明できない人も多いのではないでしょうか。

もっとも仏教に葬式の習慣はなく、まして死者へ戒名を授けるという習慣も世界中の仏教国では、日本だけです。

そもそも檀家制度に代表される一連の制度は、徳川幕府の成立期に黒衣の宰相といわれた"金地院崇伝(こんちいん・すうでん)"によって整えられたものです。


著者は葬式のあり方から仏教(その中でも主に寺院)の果たす役割をもう一度見つめ直すことを強く訴えています。

本書は"その時"が来てからは遅いかもしれない"葬式"という行事を見つめ直す機会を与えてくれます。