レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

獅子吼


浅田次郎氏の短編小説が大好きなため本屋で未読作品を見かけると反射的に購入してしまいます。
そして本書もそんな作品の1冊です。

浅田氏の短編は歴史小説、または現代小説いずれかの形式で書かれますが、本書は後者の形式で6作品が収録されています。

各作品についてネタばれしない程度に簡単なレビューしてみたいと思います。

獅子吼

戦時下の動物園で飼われている、かつては草原を駆け回っていたライオンを擬人化した作品です。
浅田氏の作品の中では珍しい手法で書かれていますが、ライオンの持つ百獣の王としての誇り、そして悲しい運命を受け入れる姿が印象に残ります。


帰り道

主人公は集団就職で上京し工場の事務職で働く妙子という女性です。
職場のスキー同好会で新潟へ出かけ、その帰り道である夜行バスでの出来事が作品になっています。

今でこそ社員旅行や同好会といった活動は減りつつありますが、かつての職場には家族的な雰囲気があり、青春の舞台でもあった懐かしい時代があったのです。
昭和39年の東京オリンピックの翌年を舞台にノスタルジックな昭和人情小説に仕上がっています。

九泉閣へようこそ

伊豆の温泉街にある老舗旅館で起きた出来事をミステリー風の物語にしています。
"ミステリー風"と表現しましたが、普通のミステリーではなく、不思議な出来事に裏にある当事者たちの想いが丁寧に描かれています。

うきよご

面識の薄い腹ちがいの姉と弟が東京で出会う場面から始まり、弟が東大を目指して入寮する「駒場尚友寮」での出来事を中心に物語が構成されています。
昔の文学作品のような雰囲気があります。

流離人

かつて学徒動員された沢村老人が、配属先の満州で出会った不思議な老中佐との出会いを思い出として語るという構成で書かれています。
浅田氏の王道的な短編作品といえます。

ブルー・ブルー・スカイ

浅田氏の大好きなラスベガス、そしてカジノがテーマになっている作品です。
カジノといえば富豪や野心的なギャンブラーたちが集う場所というイメージがありますが、ユーモアと人情に包まれた爽やかな読了感が印象的です。


1冊の文庫本に映画作品が6つも収められているような贅沢な気分に浸ることができます。