レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

ご依頼の件


ショートショートの神様”と言われた星新一の作品が40編収められた文庫本です。

もうこれだけでほかに説明が不要なくらいに定番の1冊です。

本ブログで星新一の本を紹介するのは初めてですが、短い作品であれば1~2分、長くとも5分もあれば読めてしまう作品だけに具体的に内容を説明することが難しい類の本です。

一般的にSF作家のジャンルに入れられることが多い星ですが、1000編にも及ぶ彼の残した短編小説のジャンルはSFに限らず、ファンタジー、ホラー、推理ものなど様々な味付けがされています。

電車に乗っている10分間、寝る前の5分間、それこそトイレの中でも軽く読めてしまうショートショートは、短い時間で気分転換させてくれる一服の清涼剤のような存在です。

したがって本書は美辞麗句や情緒をじっくり味わうのではなく、短編の中で見事に完結された起承転結、もっとわかり易く言えばオチを想像しながらテンポよく読み進める方が楽しめます。

作品中には殆ど名前が登場しません。
"青年"、"初老の男"、"その男"、"その女"など三人称で語られるため、余計な固有名詞を覚える必要がなく、ひたすらストーリーに没頭することができます。

バラエティに富むストーリーではあるものの、どの作品にも共通しているのは現代人へ対する風刺小説という側面を持っているという点です。

現代人の心の奥底にある願望、欲望、もしくは不満や不安を時には満たし、時には手痛いしっぺ返しを喰らわせてゆきます。

作品に出てくる人物がどういう結末を迎えるにせよどこか憎めない、まるで落語に登場する長屋の住人のように思えてくるのは私だけではないはずです。