レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

平成史


巻末に年表が掲載されているものの、本書の内容は"平成"という時代を著者(保阪正康氏)の視点から総括した内容となっており、いわゆる年表に沿った内容ではありません。

新書という分量を考えると、あらゆる視点から平成を論ずることは不可能ですが、それでも話題は比較的多岐に渡っている印象を受けました。

著者は昭和・平成で3つずつキーワードを挙げており、本書を読み解くヒントになっています。

昭和

  • 天皇(戦前の神格化天皇、戦後の人間天皇、あるいは象徴天皇)
  • 戦争(戦前の軍事主導体制、戦後の非軍事体制)
  • 臣民(戦前の一君万民主義下の臣民、戦後の市民的権利を持つ市民)

平成

  • 天皇(人間天皇と戦争の精算の役)
  • 政治(選挙制度の改革と議員の劣化)
  • 災害(天災と人災)

年号と密接に結びついるもの、それでも"天皇"というキーワードが2度出てくるのは注目すべき点です。

著者は戦前生まれであり、少年時代に戦争を体感している世代です。
そうした年代の人たちにとって天皇は、大元帥、のちに日本の象徴という2つの時代を経験していることになり、それだけに天皇へ対する思い入れが若い世代より深い印象を受けます。

つまり著者は、近代史においては天皇の言動や立場を分析することにより時代が見えてくるという歴史観を持っています。

一方で政治についてはかなり辛辣な意見を持っているようです。
特に1994年(平成6年)に導入された小選挙区制比例代表並立制が元凶であるとし、
「思想を持った政治家が敗者となり、生活次元の利害関係に長けている者が勝者となる」
と断言しています。

いずれにせよ平成が終わり近い未来に戦前・戦中を知る世代がいなくなり、日本には戦争を経験したことのない人びとのみが暮らす国になります。
つまり真の意味で「戦後」と呼ばれることはなくなるのです。

自分が生きている時代が、歴史の流れの中からどのような時代に位置するのかを考えるのは、誰にとっても必要ではないかと考えさせてくれる1冊です。