ロング・ロング・アゴー
重松清氏の短編が6つ収録されている文庫本です。
何気ない日常を切り取って物語へと綴ることに長けている著者ですが、本書に収められている作品は少年・少女の日常、またはかつての日常を切り取っています。
- 転校で別れた友達
- 小さい頃一緒に遊んだ年上の友だち
- 印象に残っている担任
- 初恋の相手
- 親戚の名物おじさん
本書の中で扱っている題材を並べてみましたが、誰にでも子どもの頃の思い出として当てはまるものがあるのではないでしょうか。
かつての自分がそのまま主人公のように当てはまる読者もいるかも知れません。
それくらい身近な出来事がテーマになっている作品が多く、かつ共感と感動を呼べるストーリーへと昇格させる著者の技量には舌を巻くしかありません。
かつて毎日遊んだ友だちとも大人になれば会う機会が滅多にないという人も多いはずです。
場合によっては会えずじまいで永遠の別れを経験するかも知れません。
それでも多感な時期を一緒に過ごしたかつての友は、心の中で大切な位置を占め続けるはずです。
何故なら彼らの存在は、大人になり住む場所や付き合う友人が変わったとしても、そこに至るまでの自己形成に多大な影響を与えてくれたはずだからです。
どの作品も自分の子どもの頃を思い出しながら読んでしまい、それでいて少しずつ違った余韻を与えてくれる秀逸な作品ばかりです。
そして読み終わってから、ふと少年の頃の自分がこの作品を読んだらどんな感想を持っただろうという空想が湧いてくるのです。
友だちと毎日学校や放課後に遊ぶことが当たり前で、そんな日々が終わることなど頭によぎることもなかった頃の自分には、本作品を読んでもピンと来なかったかも知れません。
読んでくれるかは分かりませんが、作品に登場する主人公たちと同じ歳くらいの娘に本書を勧めてみたいと思います。