レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

ひとつ海のパラスアテナ


すべての陸地が海面下に没してしまった世界、すなわち"アフター"と呼ばれる世界を舞台にしたライトノベルです。

かつて大陸が存在し、科学が発達していた世界は"ビフォア"と呼ばれ、アフターの人々はわずかに残ったそのビフォアの遺物を利用しながら逞しく生き抜いているという世界です。

映画「ウォーターワールド」のように、温暖化によって海洋惑星になってしまった地球とほぼ同じ状況だと思えば間違いありません。

主人公は両親と生き別れになり、たった1人でメッセンジャー(荷物を送り届ける配達員)として生業を立てている14歳の少女アキです。

主人公には「破滅に向かう世界を救う」といった大きな目的があるわけではなく、14歳の少女が大海だけの世界を生き抜く姿がそのままストーリーになっているといってよいでしょう。

冒頭からいきなり漂流してしまい絶体絶命のピンチに陥りますが、偶然出会った16歳の少女タカに救い出され、新たな仲間として共に旅をするようになります。

つまり本作品は大海原を舞台にしたファンタジー冒険小説といえるでしょう。。

燃料を滅多に入手できない世界にあって航海に用いられるのは、エンジンを動力とした船舶ではなく風を動力とする帆船(ヨット)です。

そのため作品中には、セーリング技術や専門用語が頻繁に登場します。
著者がその方面に詳しいことが伺えますが、丁寧に解説されている箇所もあり、読者が戸惑うことは少ないのではないでしょうか。

逆にそうした描写が、少女2人が大海を冒険するといったライトノベルらしい設定の中にあって、その過程にリアリティをもたらしてくれる効果があります。

実際のストーリーも比較的シビアなシーンが多く、中学生から大人まで楽しめる作品に仕上がっています。