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ひとつ海のパラスアテナ (3)


すべての陸地が水没して海洋惑星となった地球(?)を舞台とした冒険小説「ひとつ海のパラスアテナ」第3巻のレビューです。

第1巻が冒険の導入部、そして第2巻と3巻がより大きな冒険譚として括られている構成であるため、大団円を迎えるのが本書ということになります。

陸地が無くなってしまった世界にも"浮島"と呼ばれる、海の浮遊物が寄せ集まって出来上がった島が世界中に点在しています。

第2巻では《セジング》と呼ばれる浮島を中心に物語が展開してゆきましたが、その浮島が天災(自然現象)によって消滅してしまうところから第3巻はスタートします。

このシリーズの面白い共通点といえば、各巻で必ず1回は主人公が漂流または遭難してしまうという点です。

海上に漂う頼りない浮島とはいえ、そこでは水や食料を補給することができ、そして多くの人びとが生活しています。
よって点のような浮島と船を失ってしまった直後から、必然的に即サバイバル生活が始まるというシビアな世界に人びとは生きています。

いつ助かるのか、それとも誰にも発見されることなく死んでゆくのかという葛藤の中で生きてゆく人間は、究極の心理状態にあるといえます。

こうした描写を見て思い出すのが、江戸時代に無人島へ漂流してしまい、自給自足で13年もの歳月を送った人間を描いた吉村昭氏の「漂流」です。

食料や水を確保するのも大変ですが、一番辛いのが人知れず朽ち果てていくことへの"孤独"ではないでしょうか。
孤独で絶望に満たされた人間は、生きてゆくための活力や正常な判断力さえも失ってしまいます。

ライトノベルという特性もあり、登場するキャラクターに女性比率が多い部分は読み慣れていない私にとって少し戸惑いを覚えますが、時折出てくるリアリティ溢れる描写がそれを補って楽しませてくれます。

また作品全体としては、ストーリーのテンポよりも場面ごとの会話シーンや心理描写を丁寧に描くことに重点を置いており、比較的じっくりと読ませるタイプの作品に仕上がっています。

主人公はじめ各キャラクターの個性もしっかりと作り込まれており、続編が登場すればまた読んでみたいと思わせるシリーズです。