ルポ 中年フリーター
本書のタイトルにある"中年フリーター"とは、就職氷河期に就職難に遭遇した人びとを指します。
もっとも低いときの就職率は55%にまで落ち込み、2人に1人近くが正社員として社会人のスタートを切ることが出来ませんでした。
やがて彼らは中年を迎え、契約社員や派遣社員に代表される非正規雇用という条件下で今も働き続けています。
本書は大きく3章から構成されており、第1章では、中年フリーターの悲惨な労働環境をルポルタージュ形式で紹介しています。
第2章では中年フリーターから少し外れて、女性の労働問題を同じくルポルタージュ形式で紹介しています。
"妊娠解雇"や"マタハラ"といった問題を中心に扱っています。
そして第3章では、雇用問題へ対する新しい取り組みを始めている行政や企業を紹介しています。
こうした施策の中に中年フリーター問題を解決するためのヒントがあると著者は考えています。
私自身が就職氷河期真っ最中だったこともあり、このような状況が肌感覚としてはありました。
私の場合、小さい企業であるものの卒業1ヶ月前に就職を決めることができ、何とか正社員として滑り込めましたが、当時はフリーターでもしょうがないと半ばあきらめの心境だったことを覚えています。
私の社会人キャリが非正規雇用で始まったこと仮定すると、本書の取材に登場する人たちと同じ立場になっていた可能性が決して低くないことに気付かされます。
問題の本質を簡潔に表せば、企業が人件費を削減するために非正規雇用を安易に利用し、かつそれを行政が認めてきたという点に尽きます。
ただ本書から見えてくるのは、中年フリーターは単なる当人たちの生活苦という問題では片付かないという点です。
1つは非正規雇用労働者の増加と高齢化によって、生活保護の予算が現在の約4兆円から、将来的に17~30兆円へ膨らむ可能性があるという財政上の問題です。
2つめはフリーターという立場ゆえに専門スキルを身に付けないまま働き続けることの経済的な損失です。
つまり前向きな支援によって非正規雇社員が正社員となり熟練労働者となることで、人手不足と言われて久しい国内産業を活性化できる可能性があります。
私自身も企業における社員の人手不足を実感していますが、他方では正社員になりたくともなれないというミスマッチが起こっています。
こうした問題の本質、そして今起きている現実を知る上でも本書の示唆することは重要だと感じられます。