レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

さまよえる湖〈下〉



上巻で述べたようにタイトルにある"さまよえる湖"とは、中央アジアに4世紀頃までかつて存在していた巨大な湖「ロプノール」のことであり、それが約1600年ぶりに姿を現したとの情報を得て、カヌーで下ってその正体を突き止める探検が描かれています。

しかしその探検は上巻の最後で達成されており、下巻ではまた違った目的での探検が行われています。

それは自動車によって安西敦煌からロプノール、そしてその近くで交易の町として栄えた楼蘭へと通じる道を探し当てて走破するといったものです。

しかしその道の過程には不毛のゴビ砂漠が横たわっており、容易なものではありません。
ゴビ砂漠、そしてそれと隣り合うタクラマカン砂漠ですが、はるかに離れた日本へ風に乗って運ばれてくる黄砂の規模を考えても、その発生源である地域がいかに過酷な環境であるかは何となく想像できるはずです。

加えて当時の中国や新疆地域の政情不安もあり、探検そのものの続行も危ぶまれる状況下にありました。

果たしてヘディン率いる探検隊が無事に目的を達成するかは本書を読んでのお楽しみです。

下巻の後半にはロプノール発見に至るまでの学術的な論争やヘディン自身を含めた過去の探検の成果などが紹介されており、本書に描かれている一連の探検への学術的な意義が分かりやすく紹介されています。

本書を通じて分かることは、ヘディンは稀に見る幸運な探検家であったといえます。
それは探検で無事に生還できたことも含まれますが、ヘディンは一貫してロプノールは周期的に移動するという学説を主張しており、彼に賛同する意見は決して多くはありませんでした。
しかし彼が中央アジア探検を続けている真っ最中の1921年、なんと1600年ぶりに大自然がその学説を証明するという奇跡的な幸運に巡り合うのです。

以降、彼の学説へ異論を挟む者はいなくなり、その業績は各国で翻訳され世界中で名声を得ることになったのです。