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さまよえる湖〈上〉



著者のスヴェン・ヘディンはスウェーデンの地理学者であり、探検家としても知られています。

おもに中央アジアを探検したことで知られていますが、かつてシルクロードによってアジアとヨーロッパを結んだ歴史ロマン溢れるこの地域に精通している日本人は少ないのではないでしょうか。

私自身はタリム盆地タクラマカン砂漠、そして天山山脈がある荒涼とした地域で、そこにオアシスが点在していたんだろうという程度の印象しか持っていませんでした。

本書の上巻ではヘディンが1934年に行った中央アジア探検が紹介されています。
その目的はタイトルにある通り、"さまよえる湖"の異名を持つ「ロプノール」へ続く川をひたすらカヌーで下ってゆく日々が記録されています。

ロプノールはタリム盆地に、かつて4世紀頃までに存在していた巨大な湖であり、交易によって周辺には町が栄えていました。

しかし4世紀頃に突如ロプノールは干上がって姿を消し、水源を失った周辺の都市は衰退してゆき廃墟へと変わっていったのです。

そんなロプノールが1921年、つまり1600年ぶりに姿を現したというから自然の力は驚異的です。

ヘディンは1890年代から中央アジアの探検を開始しており、本書の探検開始時点ですでに40年のキャリアを持つ大ベテランということになります。

料理人や船頭、召使い、そして各分野の専門家によって構成された探検隊一行はかなり大規模なものであり、実績があるだけに潤沢な資金で運営されていたことが分かります。

よって荒野で生死の境を彷徨うような場面は登場せず、ヘディンの性格もあってどこか牧歌的な雰囲気で探検が進んでゆきます。

また本書には豊富な写真やヘディン自身のスケッチも多く掲載れており、読者へ紀行文のような楽しみ方も提供してくれます。

ロプノールへ向かってカヌーで下るだけでなく、周辺にある遺跡や墓を発掘する調査も行っており、ミイラや埋葬品の調査も発見されます。

当時の政治的な混乱もあり、一時的に軍に拘束されたり、物資の運搬が滞る場面もありますが、探検自体は大成功といってよいでしょう。

今から100年近く前のドキュメンタリーを見る感じで歴史ロマンを感じながら楽しめた1冊でした。

ちなみWEBで調べたことろダムの建設や気候変動などの要因で現在にロプノールは再び干上がってしまい、現在はヘディンの見た風景を見ることができないのが残念です。