レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

三国志名臣列伝 後漢篇



三国志は壮大な歴史ロマンです。
私自身も中学生時代に吉川英治の作品を読み、そしてゲームを通じてすっかりファンになった1人です。

本書の著者である宮城谷昌光氏も長編歴史小説として「三国志」を発表していますが、私はいわゆる"吉川三国志"のほかには柴田錬三郎の作品を読んだくらいで、まだ目を通したことはありません。

本書は宮城谷氏の三国志を読んだ上で手に取るのが相応しい気もしますが、著者は三国志の流れとは別に"名臣列伝シリーズ"を出しており、春秋時代楚漢(いわゆる項羽と劉邦)、日本の戦国時代を対象にした名臣列伝を執筆しています。

本書で紹介されている名臣は以下の7人です。

  • 何進(かしん)
  • 朱儁(しゅしゅん)
  • 王允(おういん)
  • 廬植(ろしょく)
  • 孔融(こうゆう)
  • 皇甫嵩(こうほすう)
  • 荀彧(じゅんいく)

しばらく三国志を読んでいないため、どれも懐かしい名前ですが、最後に登場する荀彧以外は三国志の初期に活躍した人物です。

何進については肉屋を営んでいた平民でしたが、絶世の美女であった妹が皇帝(霊帝)の皇后となった縁で大将軍になった人物です。

袁紹と組んで宮廷を牛耳る宦官を一掃したところまでは良かったのですが、詰めが甘く恨みを持つ宦官・張譲に暗殺されてしまうこともあり、個人的には何進が名臣だと思ったことはありませんでした。

しかしよく考えてみると、学問や武芸に専念したことが無かった肉屋のおやじが大将軍となり、海千山千の武将をまとめあげて黄巾の乱にも対処したという実績は凡庸な人間にはできない芸当です。

つまり人を率いる立場の人間は、自分より優れた才能の人間を活用する能力があればよく、何進は適切な判断力を持った人物であったということになります。

ほかに登場する名臣たちも、三国志という大きな物語の中では気付かなった著者ならではの視点が取り込まれており、充分に楽しめる作品でした。

ちなみに三国志には魅力的な武将たちがキラ星の如く登場するため、いくら名臣列伝と銘打ったところで1冊でそのすべてを紹介するのは到底不可能です。

しかし本書のタイトルには"後漢篇"とある通り、これから三国時代、すなわち"魏・呉・蜀"で1冊ずつ名臣列伝が刊行されることを当然のように期待してしまうのです。