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深夜特急1―香港・マカオ―



ノンフィクション作家沢木耕太郎の代表作の1つが今回紹介する「深夜特急」です。

彼は1947年生まれの団塊世代ですが、大学を出て就職するものの、たった1日で会社を辞めてしまい、26歳のときにインドのデリーからイギリスのロンドンまでバスを使って旅をすることを思い立ちます。

いわゆるリュック1つで旅行をするバックパッカーですが、当時はまだそうした言葉もなく、彼らは単なる旅好きのヒッピーと見なされていました。

直通でデリーへ向かうことも出来ましたが、たまたま入手した格安チケットが2箇所の中継点を経由(ストップオーバー)できるチケットだったため、著者は香港とバンコクを経由することにします。

バックパッカーといえば少しでも長く多くの外国を旅するため、快適さよりも値段を重視して倹約に努めながら旅を続けます。
いわゆる貧乏旅行ということになりますが、香港に降り立った著者は、ゴールデン・パレス・ゲストハウス(通称:黄金宮殿)という宿に腰を落ち着けることになります。

大げさな名前が付いていますが、そこは一泊1000円の汚く狭い部屋が用意されているだけであり、怪しい人物が出入りしている宿だったのです。

いきなり最初に訪れた香港の空気が著者に合っているのか、著者は毎日のように積極的に香港中を観察します。

そして香港の住人、怪しげな人、学生、香港で働く日本人、同じ境遇にある旅人など、出会う人びとも雑多であり、まさしくバックパッカーとしての醍醐味を味わうことになります。

香港からフェリーに乗ってマカオにも訪れ、その代名詞でもあるカジノを体験することになります。

はじめは初体験のカジノで少し遊ぶだけのつもりでしたが、結果的に飲食も睡眠も忘れて熱中するほどのめり込むことになり、いきなり所持金をすべて失う危機にも遭遇します。

そこでカジノには運の要素だけでなく、ディーラーとの駆け引きや確実に存在するインチキといった多くの要素が複雑に入り混じって成立していることを知ります。

カジノは駆け引きや心理状態を描写するだけで1冊の長編小説が書けるほど奥深いものであり、著者もその魅力にすっかりハマってしまうのです。

まだまだ目的地からほど遠い、香港界隈で時間が過ぎてゆく様子から、読者としては本当にこの旅は目的を達成できるのかと疑問を持ってしまいますが、よく考えると使用できるお金には限度があるものの、日本での仕事を整理して旅立った著者には時間的な制限はなく、好きな場所に好きなだけ滞在するという旅の仕方はバックパッカーの特権であるといえます。

若者らしい強い好奇心と旺盛な行動力、そして方向性の定まらない情熱といったものが混沌となって異様にテンションの高い内容になっており、のちに多くのバックパッカーたちへ影響を与えた作品であることが納得できる1冊です。