襲来 下
早くから外敵の襲来を予言していた日蓮からの依頼によって、小湊片海の元漁師であった見助はたった1人で対馬へ赴ことになります。
見助は外敵が一番最初にたどり着くであろう対馬において様子を探るという任務を帯びているわけですが、その滞在期間はなんと10年を超えることになります。
日蓮は外敵の襲来を予言はしても、その具体的な時期までは言及しなかったからです。
いかに尊敬してやまない日蓮の頼みとはいえ、生国から遠く離れた地で何年もの間を過ごすというのは尋常ではありません。
しかし見助はそこで無為に日々を過ごすのではなく、土地の言葉や習慣を身に付けて、自然と島人の1人として暮らすようになり、密かに思いを寄せる女性にも出会うことになります。
言わば10年という月日は、見助が対馬の住人の1人としてモンゴル襲来を体験するための準備期間であったということになります。
見助と遠く離れた日蓮は、松葉ヶ谷の法難に引き続いて伊豆や佐渡ヶ島へ流罪となるなど、幾度となく困難を経験することになります。
そして見助の身にもついにモンゴル襲来という形で危機が訪れることになるのです。。
本作品はタイトルにある通り、モンゴル襲来という大きな歴史的来事を軸としながらも、本質的には見助と日蓮という2人の生涯、そしてその絆を丁寧に描いている作品です。
上下巻合わせるとかなりの分量になりますが、生まれ故郷を出ることなく田舎の漁師として一生を終えるはずだった見助が、日蓮をはじめ多くの人びとと出会い成長してゆくという物語です。
日蓮や北条時宗を主人公とせず、あえて彼らと同時代を生きた名も残らない民衆の1人を主人公とすることで、新鮮な視点を与えてくれます。
そして見助が出会い一緒に過ごす人びとの大部分も同じく歴史書に登場しない民衆たちであり、歴史小説というより歴史文学といった印象を受けた作品でした。