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仕事と人生



三井住友銀行頭取、日本郵政社長を勤めた西川善文氏のインタビューをまとめた1冊です。

このインタビューは2013年から2014年にかけて行われたものであり、西川氏は惜しまれながらも2020年に死去しています。

インタビュー内容に応じて章立てされているようですが、どれも少し似通ったようなタイトルになっています。

  • 第1章 評価される人
  • 第2章 成長する人
  • 第3章 部下がついてくる人
  • 第4章 仕事ができる人
  • 第5章 成果を出す人
  • 第6章 危機に強い人

肝心の内容は典型的なビジネス書という感じで、インタビュー時点で完全に一線を退いていた西川氏が今までの経験から、優秀なビジネスマンに必要な要素を語るという形になっています。

西川氏の経歴の大部分はバンカー(銀行家)としてのものでしたが、本書で語られれている仕事へ取り組む姿勢、上司や部下との接し方などは、全てのビジネスマンにとっても当てはまるものであり、読みやすく頭に入りやすい内容です。

個人的に印象に残った部分として、三井住友銀行という巨大な組織においてスピード感を大切にしていたという点です。

組織が巨大になればなるほど意思決定は遅くなるものですが、西川氏は「スピードとは他のどんな付加価値よりも高い付加価値だ」という考えを持ち、バブル崩壊の際には迅速に不良債権の処理を行い、さくら銀行との合併の際にはいち早くコスト削減とリストラを実行し合併効果を挙げています。

スピードを上げるためには犠牲にするものも必要で、そのため100点満点を目指すのではなく、70点で手を打てれば御の字という経営を行ってきました。

確かに100点満点の成果を目指すために時間をかけるよりも、スピードを重視してその間に70点を何度も獲得した方が遥かに効率的だという点は私もまったく同意です。

もちろん高度な技術を要求される職人や他人の命を預かる医療従事者など、こうした例が当てはまらない職業も多いですが、多くのビジネスシーンに当てはまるのではないでしょうか。

次に見たくない現実こそ直視するという点です。

これは厳しい経営状況から目をそらさずに真正面から打開してゆくという局面に限らず、経営環境に追い風が吹いてうまくいっている状態が続いているとしても安泰に慢心したり安住することなく、良い状態はいつまでも続かないという不都合な現実から逃げずに、努力を継続するというものです。

1938年(昭和13年)生まれの西川氏には自分のバンカー人生に平時はほとんどなかったと振り返っています。

その中には耳障りの良いことばかりでなく、バンカーとして数々の企業が倒産した現場に立ち会い、経営者として多くの社員をリストラするといった決断もしてきたはずであり、本書では詳しく紹介されていない裏の現実にも思いを馳せて読んでゆく必要があると思います。