苦しかったときの話をしようか
著者の森岡毅氏は、P&Gを経て大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンにヘッドハンティングされ、当時低迷していた大阪のテーマパークの経営を立て直した実績を誇るマーケティングの専門家です。
現在は自ら株式会社刀を設立し、経営者としても活躍しています。
本書の副題には、"ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」"とありますが、これは著者が大学を卒業し社会人になとうとする長女へ向けて書き溜めていたアドバイスが編集者の目に止まり世に出ることになった1冊です。
現在は頭のいい大学を出て一流の会社に入社するという昔ながらの安定したエスカレーター的な価値観がまったく通用しない世の中になりました。
それは日本の高度経済成長が過去のものになったという要因もありますが、本質的には世の中の技術やライフスタイルの変化が目まぐるしく変わり、かつ世界中が経済的にグローバルに繋がるような時代になったという要因が大きいと思います。
日本はそこで起こる技術革新をリードすることが出来ず低迷し、その経済的地位が相対的に下がって来ているという危機に瀕しています。
例えば隆盛を誇るインターネット界隈を見渡してもGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に対抗できる企業は日本には存在せず、それはPCに使用されているOS(Windows、macOS)にしても同じことが言えます。
かつて日本の得意なハードウェアの分野に関してもPCやスマートフォンで日本のメーカが世界的なシェアを占めているものはなく、そのコアとなる部品(CPUやメモリ)についても同様です。
つまり組織に自分を人生を委ねるのではなく、個人の能力を磨き上げ、戦略的に自分のキャリアを築いてゆく時代になっているのです。
著者自身にしても日本企業ではなく、P&G、USJと外資の企業を渡り歩いてキャリアを形成してきた実績を持っています。
それは同時に年功序列という制度のない外資系企業の中で実力で周りを認めさせてきたということを意味し、ギリギリの厳しい状況を何度も経験してきたということに他なりません。
つまり豊かな暮らしを目指そうとすれば、これらから社会へ出てゆく若者たちには厳しい弱肉強食の世界が待っていて、そこでの生存競争を勝ち抜く必要性があるのです。
著者(父)は娘へ対して世界は残酷な現実があり、自分の強みを知った上でそれを磨き続けなければ生き残れないという一見すると、かなり厳しい言葉を投げかけています。
しかし一方で、そこには希望も満ち溢れており、挑戦のための自由な選択肢が無数にあることも同時に示唆してくれています。
本書は我が子へ対して社会に出てから厳しい現実が待っているという心構えを促し、そこで生き抜くための戦略を指南しながらも、最終的にはエールを送る内容にもなっているのです。
経済的に成功した父親が娘へアドバイスをしているだけの本であり、平凡な道を歩いてきた自分には関係ないと決めつけるより、自分のキャリアを振り返るのにも役に立つ1冊であり、年頃の子どもがいる親であれば自分が一度読んだ上で勧めてみてはどうでしょうか?