リーチ先生
前回に引き続き原田マハ氏の作品です。
タイトルにあるリーチ先生とは、バーナード・リーチ(1887~1979)のことであり、イギリス人として来日して陶芸を学び、のちに祖国イギリスのセント・アイヴスで窯を開き、陶芸家として日本だけでなく海外でも広く知られています。
とはいえ陶芸の世界を知らない私にとっては、本作品を通じてはじめて知った陶芸家です。
本作品はリーチの伝記としてよりも、明治時代に単身日本を訪れ、陶芸を通じた日本とイギリスの交流を描いた小説作品として楽しむ1冊となります。
作品中には実際にリーチと交流のあった濱田庄司、河井寛次郎、富本憲吉、高村光太郎、そして柳宗悦をはじめとして武者小路実篤、志賀直哉といった白樺派のメンバーが登場しますが、何と言っても作者が本作品のために登場させる沖亀之助・高市親子を通じてリーチの物語が展開されてゆきます。
沖亀之助はリーチの一番弟子として、また彼の身の回りの世話をする人物として登場しますが、リーチが芸術家として苦悩する日々、陶芸という一生を捧げる目的を見つけた喜び、そして日本やイギリスで窯を開くまでの苦楽を共にします。
つまり亀之介はリーチの成し遂げたことの一部始終を見届けてたきただけでなく、その内面のことも良く知っている一番の理解者なのです。
亀之助は不運にもリーチよりかなり早く亡くなりますが、彼の意志は息子の高市に受け継がれ、親子二代に渡るリーチとの交流が作品の大きな軸となります。
かなりの長編ですが、その分リーチたちの日常が丁寧に描かれており、完成度の高い小説に仕上がっています。
リーチ先生と沖親子間の心の交流が読者の心を暖かくしてくれる作品であり、爽やかな気分にさせてくれます。
ちなみにリーチがセント・アイヴスで開いた「リーチ工房」は健在であり、今なお陶芸を通じた日英の架け橋となり続けているとのことです。