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蓮如



蓮如(れんにょ)という名を聞いても、親鸞(しんらん)の嫡流として生まれ浄土真宗を広く広めた中興の祖といった程度の知識しかありませんでした。

戦国時代ファンとしては蓮如よりも、石山本願寺を拠点に織田信長と10年にわたり戦いを繰り広げた顕如(けんにょ)の方が印象に残っているくらいです。

本書は作家の五木寛之氏が、蓮如について解説・考察した1冊です。

著者は歴史の専門家でないこともあり、本書に蓮如の生涯や功績が事細かく記されているわけではありません。

よって本書は蓮如の功績を時系列で知りたい人にとっては不向きかもしれません。

内容は作者が蓮如の足跡をざっくりと辿り、彼が考えたであろう事柄、そこへ集う当時の民衆たちの信仰心、また親鸞と対比して見えてくる蓮如の人柄や特徴を考察してゆく内容になっています。

極端に言えば蓮如をテーマにしたエッセーと言えるかもしれません。

ともかく作者は聖人のイメージが定着している親鸞よりも、謎めいたところのある蓮如の方が好みのようで、次のように表現しています。
親鸞の名前をきけば、人びとは襟を正し、居ずまいを改めて、おのずと敬虔な表情になります。
しかし、蓮如さんと聞けば人びとは思わず頬をゆるめて、春風に吹かれるような和やかな目つきになる。

蓮如は40代半ばに本願寺当主となるまで歴史の表舞台に出ることはありませんでした。

しかし一旦登場するや否、蓮如はまたたく間に爆発的に信徒を増やしてゆきます。

先代の正式な妻の子どもでなかったにもかかわらず当主となった点、越前の吉崎や京の山科に布教拠点としの一大勢力を築き、それがのちの一向一揆の土台となった点など、そこには親鸞とは違い世渡りに長けた、やり手の宗教家といったイメージが漂ってきます。

たとえば現代においても北陸地方が「真宗王国」と呼ばれているのが蓮如の功績であることは間違いなく、どことなく政治家が築いた地盤で行う票集めのような雰囲気さえ感じます。

もちろんこれは私個人の印象ですが、民衆の中に溶け込み、彼らの苦悩ととも生きて布教活動を行った蓮如の姿を想像しながら、そんなことを考えながら読んだ1冊です。