レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

海馬(トド)



本書は吉村昭氏が、7篇の動物を扱った小説をまとめた1冊です。
収められている作品と扱っている動物は以下の通りです。

  • 闇にひらめく<鰻>
  • 研かれた角<闘牛>
  • 蛍の舞<蛍>
  • 鴨<鴨>
  • 銃を置く<熊>
  • 凍った眼<錦鯉>
  • 海馬<トド>

いずれも創作小説ですが記録小説として知られている著者だけあって、扱う動物の習性をよく調べた上で書かれていることが分かります。

「銃を置く」ではヒグマ撃ちの名手として名高い大川春義をモデルにした作品ですが、著者は実際に何度か会って取材をしています。

大川氏は幼い頃に三毛別羆事件をすぐ近くで見聞きした体験を持っていることもあり、同事件を題材にした「熊嵐」の続編と位置付けることができます。

大川氏はアイヌ猟師に師事して熊の習性や仕留めるコツなどを学んでゆき、生涯に100頭ものヒグマを仕留めまでの過程を作品にしています。

ほかに鰻を扱った「闇にひらめく」が個人的には印象に残っています。

作品中では鰻の習性とその漁の仕組みに詳しく触れられている部分が興味深いのはもちろんですが、そこに恋愛ストーリーがうまく織り込まれており、完成度の高い小説として楽しめる作品に仕上がっています。

作品のストーリーは様々ですが、本書には人間と動物、または人間と自然といった大きなテーマが横たわっており、色々と考えさせられる1冊です。