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プロ野球・二軍の謎



アマチュアならともかくプロスポーツで選手やチームが目指すものはただ1つ、それは勝利のみです。

勝利こそが選手やチームの知名度を上げ、それによって観客やスポンサーが集まり、選手の現役活動やチームの運営を続けることができます。

しかし物事には例外があります。
その1つが本書で紹介されているプロ野球二軍です。

もちろん二軍チームにとっても勝敗は重要ですが、大前提として二軍は一軍のために存在します。

将来一軍で活躍できる若手選手に経験を積ませたり、ケガ明けやスランプに陥った一軍選手の調整の場として使われたりするのです。

本書ではメディアで取り上げられる機会の少ないプロ野球の二軍について書かれたものであり、実際にオリックス二軍監督を努めた田口壮氏によって執筆されています。

本書は著者がはじめて二軍監督に就任した2016年シーズンより日経電子版で連載された「2軍監督 田口壮!」を加筆・修正して新書にまとめたものです。

著者にとってはじめての指導者デビューのタイミングでもあったため、経験を積んだ指導者が執筆する場合と違い、著者のこれからの意気込みや手探り感などが読者に伝わってきます。

さらに1年を振り返って失敗した部分や、来季に向けて改善してゆきたい部分も素直に書かれており、読者が新米監督を応援したくなる気持ちになります。

しかし田口壮といえば約20年に渡りオリックやMLBで活躍した名選手であり、現役選手としての実績は充分です。

しかも日米両方の1軍や2軍の経験も豊富なため、本書ではNLBとMLBの二軍(MLBであれば3A以下のマイナーリーグ)を比較して、その制度や指導方法の違いについて言及しています。

1軍だけを見るとMLBではNLBのスター選手と比較して、年俸の額が1桁多い破格な待遇となりますが、こと二軍に関しては日本の方がはるかに恵まれていることが分かります。

日本では監督含めたコーチ陣が一丸となって将来有望な選手を育て上げるという風潮がありますが、マイナーリーグではまず所属する選手の人数からして桁違いということもあり、細やかな指導は行われません。

また日米の1軍枠の選手数にそう大差ないことを考えると、その競争倍率は日本よりも厳しいものになり、自らの力だけで一軍に這い上がる必要があります。

本書では日米比較に限らず、日本のプロ野球に二軍観戦ガイドのようなものも紹介されています。

私自身もファンである西武ライオンズの二軍の試合を何度か観戦したことがありますが、一軍の試合とは違って応援歌や鳴り物が響き渡ることもなく応控えめです。

ファンの視点も二軍の勝利というよりは、将来一軍で活躍しそうな選手を見守るような雰囲気があります。

また本書でも触れらていますが、フェンスを挟んでわずか数メートル先で選手を見れる点も醍醐味だと思います。

著者自身もプロ野球二軍に少しでも興味を持ってもらうために本書を執筆したと語っていますが、これを機会に気軽に出かけて応援できる二軍の試合会場へ足を運んでみてはいかがでしょうか?