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再び男たちへ



歴史小説家である塩野七生氏によるエッセーです。

塩野氏は多くのエッセーを出していますが、タイトルから推測できる通り「男たちへ」というエッセーの続編となります。

本作品は著者自身の日常を綴ったエッセーというより、時事問題、とりわけ政治や社会問題を扱ったテーマが多いのが特徴です。

やはり歴史小説化ということもあり、歴史から学ぶという視点から時事問題を切っており、特に著者が作品として扱っているローマ帝国ヴェネティア共和国を例として取り扱っている点が特徴です。

この2つの国はいずれも1000年以上に渡って繁栄したという共通点を持っており、その統治範囲も広範囲に及びました。

ただし本書が発売されたのは1991年であり、本書の内容は今から30年以上前の時事問題を扱っていることになりますが、当時の出来事と照らし合わせて読むことでより楽しめるのではないかと思います。

例えばこの頃から議論されるようになった日本への外国人労働者や移民の受け入れという問題がありますが、ヴェネティア共和国は異国民との交易で繁栄しながらも、ヴェネティア本国に住む住民以外、たとえ地理的に近い北イタリアの貴族であっても国会の議席すら与えず、本国の政治には一言も口を挟むことを許さず純血主義を守り抜いたといいます。

ただしこれは著者が外国人受け入れを否定している訳ではなく、開国路線、鎖国路線のいずれを選ぼうが、国家の延命にはほとんど関係のない分野の政策であると断じてます。

その他にも当時はまだソ連が健在だったため共産主義を論じてみたり、年功序列制から実力主義・能力主義へ切り替わってゆく流れの是非について、企業文化などさまざまな題材を取り上げています。

それでも世界の中における日本の在り方、さらには未来に向けての提言という点では共通しており、この本が発表されたときの日本はバブル最盛期の時代でした。

その中にあっても著者は当時の日本の経済力を称賛するというより、経済的な成長にのみ視点が行っていまい浮かれている当時の状況を憂いているかのような内容であり、このときの著者の懸念が現実となったことがよく分かります。

むしろ経済成長が終わりを告げ、経済大国の地位を失いつつある今の日本にとって示唆に富む1冊になっているように思えます。