レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

陰日向に咲く


お笑い芸人である劇団ひとりが2006年に発表したデビュー作となった小説です。

私自身は頻繁にTV番組を見ているわけでなく芸人に詳しい訳ではありませんが、時々見ている番組の中にテレビ東京で放映されている「ゴットタン」があり、司会の1人として活躍しているだけに著者のことは昔から知っています。

一方で日常的に読書をしていると、エッセイは別として本職の作家が執筆した小説作品を読むことが多く、あまり芸能人による小説は読んできませんでした。

ふと思い立って発表されてから随分と時間が経ってから本書を手にとってみました。

本作品は6人の主人公が登場するオムニバス小説として構成されています。

いずれの主人公にも共通するのは、社会の落ちこぼれであるという点です。

その落ちこぼれ方はさまざまであり、ホームレスに憧れ社会人をリタイアしたり、アイドル好きが高じて給料の殆どを貢ぐオタク、自分に自信を持てない二十歳の女性、ギャンブル狂いの中年男性、酷い家庭事情が理由で家出した少女などが登場します。

あえて社会からの落ちこぼれを主人公にする点に、著者の芸人らしい人間観察の特徴が現れている気がします。

率直に言うと、お笑い芸人の作家デビュー作品ということもあり、文章力や作品の構成力には専業作家には及ばない点が見受けられます。

一方で作品全体からはデビュー作ならではの意欲や勢いが感じられ、個人的には小説作品というより演劇の台本、または映画の脚本のような印象を受けました。

小説へ対して綿密な作り込みを要求する読者にとっては物足りなさを感じる内容かも知れませんが、エンターテイメント作品として読む分には充分に成立していると思います。

私個人はTV番組で拝見する著者らしさが発揮されている、つまり個性がしっかりと出ている作品であり、いわゆる無難な小説になっていない点は評価できます。