スマホ脳
著者のアンデシュ・ハンセン氏は、スウェーデン人の精神科医です。
本書は世界中で爆発的に普及したスマートフォン(スマホ)が、人体にもたらす深刻な影響を専門家の立場から解説した本です。
はじめスウェーデンで発売され、人口1000万人の同国で50万部のベストセラーになったそうなので、約12倍の人口を要する日本に当てはめると600万部という途方もない数字になります。
つまりスウェーデンでは社会現象になった作品ですが、本書が小説でもエッセイでもなく警鐘を鳴らす啓蒙書だったことを考えると、国中を巻き込んだ社会現象になったことが想像できます。
以前ブログでも紹介した同じくハンセン氏の「運動脳」はスウェーデン国内で67万部を売り上げており、精神科医でありながらスウェーデン1のベストセラー作家であると言えます。
内容はかなり専門的であるものの、世界中で行われた実験、そして医師としての知見からスマホが人間の脳へどのような影響を及ぶのかについて丁寧に分かりやすく解説してくれているため、一般読者でも充分に内容を理解することができます。
- 第1章 人類はスマホなしで歴史を作ってきた
- 第2章 ストレス、恐怖、うつには役割がある
- 第3章 スマホは私たちの最新のドラッグである
- 第4章 集中力こそ現代社会の貴重品
- 第5章 スクリーンがメンタルヘルスや睡眠に与える影響
- 第6章 SNSー現代最強の「インフルエンサー」
- 第7章 バカになっていく子供たち
- 第8章 運動というスマートな対抗策
- 第9章 脳はスマホに適応するのか?
私たち人(ホモ・サピエンス)は、10万年前にアフリカで誕生しまたが、スマホやSNSが本格的に普及したのはここ10年間であり、私たちの脳は未だに狩猟採取を行ってきた時代に最適化されたままだということです。
たとえば命の危険性が迫った際に「逃げるか闘うか」の選択を素早く行うためにストレスや不安が、より生存できる確率を高めるために社会性や好奇心という能力が準備されているのです。
しかしスマホの登場によってそうした能力が誤動作をするようになり、現代社会において精神の不調、不眠症、さらには知能の低下といった事態を引き起こしているのです。
医師らしくそのための解決方法が8章の「運動というスマートな対抗策」で解説されていますが、この部分を詳しく掘り下げたのが先ほど紹介した「運動脳」であり。興味のある人はそちらも読んでみてください。
大きな視点で見ると、インターネット技術の発展の中にスマホの誕生も含まれており、このスマホこそが手軽にインターネットを利用する手段として起爆剤になりました。
今やインターネットなしではショッピングや道案内、天気予報、さらにはニュースすら入手できなくなっている人が増えており、家族や友人とのやりとりも対面よりもネットを通じて行われる頻度の方が多くなっています。
わすか20年足らずという短期間で劇的にわれわれの生活が便利になったという見方ができますが、この"短期間で劇的"という部分に含まれている深刻な副作用が世界中で明らかにされつつあり、本書はすこしでも多くの人がその危険性に気付いてほしいという手引書なのです。